この連載では、仕事で勝てる「ビジネス文章力」をテーマにしている。良いビジネス文章を書きたいなら、単に礼儀作法を知っているだけではダメである。ビジネススキルを向上させること、これが良いビジネス文章を書くための条件である。最終回の今回は「思考深度不足」の治療を紹介する。

 仕事の課題と対策を上司に説明する文章では、「深く考えている。だから対策に不備はないだろう」と上司に思わせることが必要だ。そうでないと上司からの仕事の評価は低くなる。今日の患者さんも、そういう人だった。

夏沢岳人(なつざわ がくと 仮名 35歳 男性 課長代理)の症例

 夏沢氏の相談は、開発中の新販売管理システムの利用者テストで発生した課題に関することである。上司である情報システム部長から「君の考える課題認識と対策は深くない。思考が甘い」と言われたとのことだった。

 夏沢氏は35歳。北九州の中堅健康食品メーカーZ社のプロジェクト管理課の課長代理としてプロジェクト管理スタッフを担当している。Z社に入社後、最初にシステム開発課でプログラミングを担当、その後システム設計を長く担当した。

 3か月前にプロジェクト管理課に異動し、現在はZ社が新規開発している新販売管理システム導入のプロジェクト管理業務(進捗管理、課題解決、上位職や関係ラインへのレポーティングなど)の仕事を行っている。

 Z社では1年前から老朽化した販売管理システムの再構築を行っている。Z社は北九州の地場企業として創業したが、健康増進をテーマにした商品は評価が高く、創業10年で大きく成長、販売先は日本全国だけでなく世界各国にも拡大している。

 近年の健康志向や、ダイエットブームが追い風になり、売上高は右肩上がりの基調だが、Z社の販売管理システムはバッチ処理中心のため、夜間処理が必要で、24時間、365日発生する世界各国からの注文に対応することが難しかった。

 そこでZ社では24時間、365日の受注に対応するために新販売管理システムを開発することになった。Z社での新システム開発は15年ぶりのことであり、社内にはシステム開発のノウハウが不足していた。

 Z社では、専用のプロジェクト管理組織が必要と考え、プロジェクト管理課を設置し、このメンバーに新販売管理システムのプロジェクト管理を担当させることにした。担当になった一人が夏沢氏である。

 新販売管理システムの開発は順調だったが、利用者向けテストの開始後に問題が起きた。利用者側から不満と要望が出されたのである。経営会議の場で、業務担当役員が「新システムのテストは問題がある」と発言したのだ。

 そこで情報システム部長は、夏沢氏に利用者テストの問題を報告するように命じた。夏沢氏は早速、利用部門の責任者とシステム開発側のリーダーに話を聞き、状況を情報システム部長に説明した。

 情報システム部長は説明を黙って聞いていたが、説明が終わると「対策が不十分だ。これでは経営に説明できない。君にはもう一歩深い考えがない」と言った。この言葉に夏沢氏は困惑し、大きなショックを受けた。

 「どのような文章なら情報システム部長が納得するか分からない。自分に何が足りないのかを知りたい。必要な文章治療をしてほしい。」夏沢氏が文章治療室に来られたのは、こういう経緯だった。