ここ最近、BtoBマーケティングの周辺で目にする機会が増えてきた「アカウント・ベースド・マーケティング(Account Based Marketing、ABM)」。今後のBtoBマーケティングの主流となる手法と期待されているが、従来の手法と何が違うのか分かりずらい。本特集では、ABMの概要と、ABMの導入で一歩先を行く海外の動向を俯瞰する。

 第2回はマーケティング部門によるアカウント選定のポイントとなる「企業マスターの定義」と「三つの輪とアプローチ方法」、ABMで変わるマーケティング活動の考え方を解説する。


 筆者は海外のマーケティングチームから「Account Based Marketing(ABM)」という言葉をよく耳にします。これからのBtoBマーケティングを考える上で、理解しておくべき用語でしょう。

 後編の今回は、まずマーケティングによるアカウント選定の残り二つのポイントである、「企業マスターの定義」と「三つの輪とアプローチ方法」について解説します。

2.「企業マスターの定義」

 自社の売り上げを基に、上位企業の傾向を把握し優良顧客を定義できれば、「同様の売り上げを期待できるが、まだ売れていない企業」、いわゆる「ホワイトスペース」を調べる足掛かりにできます。

 具体的には、「従業員数千人以上の製造業に大型案件が多いが、大型案件が作れていない企業が○○社ある」といったレベルまで、リストを作りこむことがゴールになります。

 このためには「過去に取引がない企業」すなわち「自社にデータがない企業」のリストが必要になります。こうしたデータは外部から「企業マスター」として導入する必要があります。

 筆者は与信管理サービスを提供している東京商工リサーチや帝国データバンクなどから企業マスターを購入することを勧めています。これらは与信管理のために活用されるデータであり、その企業情報の正確性や鮮度について十分に信頼できること、さらに網羅性が高いことが理由として挙げられます。

 自社を売り込めていない企業は、得られた売上データだけでは把握できません。企業マスターを導入することで、購買力の定義に応じた対象企業の選定が可能になるのです。

3.「三つの輪とアプローチ方法」

 マーケティング部門が作る「アカウント戦略」で重要になるのが、「コンタクト(Opt-in)情報」です。

 対象企業を定義できても、アプローチできなければ意味がありません。営業部門に「攻略企業リスト」を渡しても、訪問先が分からなければ放置され、または案件化までに多くの時間を要するでしょう。

 そこで「対象企業におけるコンタクト(Opt-in)の有無」を判断することが重要になります。コンタクトが不足しているならば、獲得するためのマーケティング活動を実施し、アプローチが可能な企業を増やすことが必要となります。

 こうして「自社の売上情報」、「企業マスターによる購買力のある企業」、「自社のコンタクト(Opt-in)情報」の三つがそろうと、マーケティング部門が何をすべきかが明確化となり、定量化できるようになります。