正月の風物詩である箱根駅伝で、総合2連覇を果たした青山学院大学。2016年には、一度も往路1区からトップを譲らないまま選手がゴールテープを切る「完全優勝」を39年ぶりに達成し話題を振りまいた。

 弱小だった青山学院陸上競技部をゼロから再建し、10年あまりで超強豪チームへと脱皮させたのは原晋監督の手腕によるところが大きい。独特のチーム理論を掲げ、そして着実に実践して結果を出す「原イズム」には、陸上競技を始めとしたスポーツ関係者のみならず産業界からも熱い視線が注がれる。

 2016年7月、日経BP社主催のイベント「IT Japan 2016」に原監督が登壇。「箱根駅伝連覇を達成したハッピー大作戦の舞台裏」と題し、強いチーム作りについて講演した。惜しみなく観衆に披露した秘訣の数々は、ビジネスの現場でも役立つものばかりだ。原監督はいったい何を語ったのか。

原点は自らの意思で覚悟を持って臨んだ高校時代

写真●青山学院陸上競技部の原晋監督
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写真●青山学院陸上競技部の原晋監督

 本日は、日本の陸上競技の古くて、ともすれば悪しき面もある伝統を崩し、これから世界と戦うために何が必要なのか、その一端をお話したいと思います。

 まず自己紹介から。私は今年49歳です。現役の選手としては合計12年間、陸上の世界にいました。振り返ってみると、真剣に陸上競技に向き合ったのは、広島県立世羅高等学校に在籍していた3年間だったように思います。自らの意思で覚悟を持って臨んだ高校時代。それに対して、なんとなく続けてしまったのが大学生時代や社会人時代でした。そのことを後悔しています。

画面●原監督のプロフィール
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画面●原監督のプロフィール

 私が現役を退いた理由は、自らの不注意でねんざしてしまったことでした。中京大学体育学部を経て、中国電力に陸上部の1期生として入社したのですが、1年目で故障。結局、5年目で陸上部から「クビ」を言い渡されました。

 現役を引退したとき、当時の上司から送られた送別の言葉が今も忘れられません。将来を期待して採用しただけに残念だが、みんながこれからも応援している、決して後ろ指を指されないように精一杯頑張ってほしい——。そんな温かい言葉でした。「よしもう一度、今度は普通の会社員としてがんばってみよう」。そう腹に決めました。