“生”で観るプロスポーツの感動を、テクノロジーの力で倍増させる動きが各地で広がっている。Jリーグに加盟するプロサッカークラブの大宮アルディージャは7月、ホームスタジアム内で観客が様々なコンテンツを楽しめる新たなサービスを開始した。

 合計75台もの無線LANのアクセスポイントを場内に設置し、オリジナル映像や近隣店舗で使える割引クーポンなどを観客のスマートフォンに配信する。いわゆる「スマートスタジアム」化を推進し、今まで以上に楽しく快適な観戦スタイルを提案。「また戻ってきたくなる場所」(大宮アルディージャ)に仕立て、Jリーグ全体の人気向上に結びつけたいと考えている。

日本最古のサッカースタジアムが一変

写真●NACK5スタジアムで開かれる大宮アルディージャ戦は、地元を中心とした熱狂的なサポーターでいつも埋め尽くされる
写真●NACK5スタジアムで開かれる大宮アルディージャ戦は、地元を中心とした熱狂的なサポーターでいつも埋め尽くされる
[画像のクリックで拡大表示]

 「無線LAN、始めました。試合前にも試合後にも便利ですよ。ぜひ使ってみて下さい」。7月13日、大宮アルディージャのホームスタジアム内には、「ARDIJA FREE Wi-Fi」のロゴが入ったおそろいのシャツを着た係員たちが、来場者に熱心に新サービスを売り込んでいた。セカンドステージが始まった直後の当日、上位争いを繰り広げる地元チームが強豪ガンバ大阪と対戦するとあって、試合を一目見ようと熱心なサポーターが早くからスタジアムに駆けつけていた。絶好のアピールの機会とあって、係員の宣伝にも熱が入る。

 NACK5スタジアムは1960年に作られた、日本初で最古のサッカー専用スタジアムである。ファンの間では、1979年にワールドユース日本大会が開かれた際に、来日したアルゼンチンのディエゴ・マラドーナ選手が国際大会デビューした舞台としても知られている。

 近年大幅改修し場内の設備を一新したが、それでは飽き足らないクラブは所有者である埼玉県さいたま市の外郭団体の理解を得て、今回最新テクノロジーの活用へと舵を切った。「スタジアム内はもちろん、サポーターのみなさんが場外でも快適に楽しく過ごせる、日本ならではのスマートスタジアムを目指した」。森正志・代表取締役社長は狙いをこう語る。

写真●大宮アルディージャの森正志・代表取締役社長(上)とNTT新ビジネス推進室2020レガシー担当の小笠原賀子担当部長(下)
[画像のクリックで拡大表示]
写真●大宮アルディージャの森正志・代表取締役社長(上)とNTT新ビジネス推進室2020レガシー担当の小笠原賀子担当部長(下)
[画像のクリックで拡大表示]
写真●大宮アルディージャの森正志・代表取締役社長(上)とNTT新ビジネス推進室2020レガシー担当の小笠原賀子担当部長(下)

 ARDIJA FREE Wi-Fiは、大量のアクセスポイントを配置することで、観客席の各エリアごとに安定した通信環境を提供するものだ。技術的には「高密度Wi-Fi」と呼ばれ、指向性の高いアンテナを使って実現する。NACK5スタジアムでは300人から350人分の座席に1台の割合でアクセスポイントを配置し、50人が一斉に同時アクセスしても毎秒1メガビットの速度で全員が快適にネット接続できるという。2.4ギガヘルツと5ギガヘルツ帯を駆使し、全340ものチャネルを生かして、速度を維持するのが特徴だ。開発導入に当たっては、NTTグループが全面支援した。

 「高密度Wi-Fi自体は、海外でも導入が進む標準的なもので、そこはチャレンジではない。その上で、いかにサポーターの心をくすぐるコンテンツサービスを提供するか。それこそが挑戦だった」。NTT新ビジネス推進室2020レガシー担当の小笠原賀子担当部長はこう明かす。