80年以上の歴史を持つ日本のプロ野球。日々産み出され、綿々と受け継がれてきた公式記録を支える仕組みが今春一新されたことはあまり知られていない。一般社団法人日本野球機構は2月、公式記録を入力管理する専用システムを刷新。オープン戦から新しい「公式記録管理システム(BIS)」の運用を始めた。

 映画「マネーボール」で描かれたように、球団にとって選手や試合に関する様々な情報をビッグデータとして分析し、戦術に生かすのは昨今の野球界では当たり前になりつつある。またファンサービスの一環で、各種データを活用して試合中継を盛り上げたいと考えるテレビ局やネット企業も増えている。こうした野球関係者たちの新しい期待に応えるのが、新システムを立ち上げた狙いだ。

今まで以上に正確に、スピーディに

写真●一般社団法人日本野球機構から開発を請け負った伊藤忠テクノソリューションズの担当者。流通・EP第1本部の久須美仁氏氏(左)、佐々木洋二氏(右)
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写真●一般社団法人日本野球機構から開発を請け負った伊藤忠テクノソリューションズの担当者。流通・EP第1本部の久須美仁氏氏(左)、佐々木洋二氏(右)

 「正確かつスピーディに記録できるのは当然として、貯めたデータを様々な用途に柔軟に2次利用しやすくなる」。こう語るのは、システム開発を請け負った伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)の流通・EP第1本部の佐々木洋二氏。CTCはグループ売上高が3919億円(2015年度)の大手システム構築(SI)会社。日本野球機構が実施したシステム開発案件に入札し、過去の実績などを評価され応札に成功した。

 日本野球機構が初めてBISを導入した時期は、1988年まで遡る。それを機に紙だけの記録からデジタルでの記録に変更。以来、試合ごとに公式記録員がパソコンで試合経過をリアルタイムに記録してきた。1998年からは「間違いがない情報」を必要とするテレビ局や新聞社に配信してきた。各局のスポーツ番組や新聞のスポーツ欄で紹介される試合内容の多くは、実はBISによって裏付けされたものである。球団にも配信し、選手の分析やオフシーズンの年俸査定、トレードの検討などで使われてきた。

 30年近く運用するなかで、入力管理になんらかの問題が生じたわけではない。ただ今となってはいわゆるレガシー(遺産)なシステムになってしまい、クラウドコンピューティング時代の到来に合う姿に刷新すべきだと日本野球機構は判断。新BISの開発に踏み切った。

 応札したCTCが工夫したのは、いかに記録員が今まで以上に正確かつスピーディに記録できるかだった。記録員は1軍や2軍の試合ごとにスタジアムに赴き、投手が投げた1球ごとにどんなプレーが行われたのかを事細かに記録していく。プロ野球の試合はセリーグの1軍の場合、1球団あたり年間125試合(2016年)。交流戦やオールスターゲーム、2軍戦も含めて、全球団による全試合を対象に記録している。

 スポーツメディアなどが「1球速報」などの名称で、外部のスポーツデータ分析会社と組み似た中継を行っている場合があるが、公式記録データの方がより細かい。

 1打席ごとに、誰が打席に立ち、ランナーはどこに居て、どんなボールカウントで、ピッチャーはどこに投げたのか。結果打てたのか/アウトになったのか、どこに打ち、打者やランナーはどう動いたのか、アウトになったのならそれはどんなボールの動きで成されたのか――。「スタジアムで行われた試合が1場面ずつ目の前で後日再現できるほどのレベルで、克明にデータとして記録していくことが求められる」(流通・EP第1本部の久須美仁氏)。

 苦労したのは、どんなプレーが起こっても、日本の野球公式ルールを定めた「公認野球規則」や紙の「スコアシート」に照らし合わせて整合性がとれつつ、かつ最終的に審判がどんなジャッジを下しても、適切に入力できるようにする点だった。おまけに公認野球規則は毎年改訂されるので、過去の規則改訂を考慮して遡って同列に比較・検索できる形にしなければならない。