プロ野球シーズンが今年もやってきた。3月25日に開幕して以降、連日熱戦が繰り広げられ、スタジアムは大いに盛り上がっている。パ・リーグ6球団は今年、共同で新しい試みを始める。産官学の知恵を結集し、IT(情報技術)を使って健康増進を促すという挑戦だ。
近日始める「パ・リーグ ウォーク」というスマートフォン(スマホ)向けサービスがそれだ。米ハーバード大学院の公衆衛生学研究チームの全面支援を受け、経済産業省が後援。数年がかりで人間の行動を科学的に分析し、超高齢化社会における健康のあり方を変えようと意気込む巨大プロジェクトだ。
『観る』と『する』の間にある大きな断絶
「スポーツの世界には『観る』と『する』の間に大きな断絶があった。新サービスでそれを埋めたい」。パ・リーグ ウォークの仕掛け人である根岸友喜パシフィックリーグマーケティング執行役員は、思いをこう吐露する。同社はパ・リーグ6球団の各種権利をとりまとめ、それを生かした有料ネット中継サービスを積極的に仕掛けてきた実績で知られる。
新サービスは、一種の歩数計アプリをファンに無償配布し、日常生活で活用してもらう。一人ひとりが歩数を記録した結果を、応援するチームごとに積み上げ、試合日には相手チームと合計値を競い合わせる。頑張った人だけに選手からの応援メッセージが届くなど、継続を促す工夫をさまざま凝らす。
スマホを使った健康管理アプリが花盛りだが、パ・リーグ ウォークはリアルなスポーツイベントとシーズンを通じて連携し、数万人以上の規模でファンが同時参加して日々楽しめる点が新しい。歩いた記録は、スマホをポケットに入れておくだけで勝手に完了する。アプリを立ち上げると、1日の歩数や月間の合計歩数、同じチームを応援する参加者の中でのランキングなどが確認できる。
「王さんのホームラン記録達成!」。続けることで、こんな画面が時々現れる。この場合は、王さんが打ったホームラン868本分だけ、ダイアモンド(1周当たり109メートル)をぐるぐる回るのと同じ距離だけ歩いたということ。運動に関心がない人でも手軽に始め、楽しく続けられる。
「ゲーミフィケーションの要素を採り入れ、試合がある日もない日も楽しくなるよう配慮した」(根岸執行役員)。例えば試合中は『ブースト機能』をオンにして、歩数を割り増しできる。試合の勝ち負けの経過とは別に、スタジアムで観戦するライバルのファン同士も試合中に合計歩数の積み上げ競争で競い合えるわけである。
パ・リーグファンは約1200万人いるとされ、熱心に応援する人だけで約300万人。スタジアムの観客動員数は年間で累計1000万人に及ぶ。ひいきチームへの「愛」にあふれたファンたちによる、もう一つの熱戦が今シーズンはあちこちで繰り広げられそうだ。