企業は、売り上げにつながるマーケティング活動の提案と、マーケティング部門の貢献を明確に測る手法をどう磨くべきなのか。「リードジェネレーション(見込み客を獲得すること)」や「デマンドジェネレーション(見込み案件を創出・発掘すること)」に携わってきたシスコシステムズの中東孝夫氏に、6話にわたって解説してもらう。

 第4回は、購買サイクルを6つのステータスに分けて解説する。


 前回の最後に、大事な点として「今期の予算枠から漏れても、来期にまたチャンスが巡る」について触れ、商材によっては「追加予算」や「期末の余剰予算」で急きょランクインする場合もあるとお伝えしました。また、今期ランキングから漏れた案件は、来期以降の予算で優先順位が上がる可能性が高いため、中長期にわたるリード(案件)の管理が必要と述べました。

 なぜ、そうした管理が必要なのかについて述べたいと思います。

購買ライフサイクル

 BtoBにおける購買活動は、一過性というよりも、継続性があるものが多いと考えています。たとえ文房具などの消費財であったとしても、継続取引契約(指定業者制など)により、定常的な購買サイクルが発生するからです。

6つの購買ライフサイクル
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 購買サイクルはいくつかの分類がありますが、ここでは6つのステータスに分けたいと考えます。

(1)現状維持

 顧客が特に変化を望んでいない状況です。新製品の導入直後や、顧客に必要性が認知されていない状態です。

(2)課題認識と解決策の模索

 課題認識とは、「現状に対して何らかの問題点や改善の必要性を認識すること」です。例えば、「保守契約が切れそう」「故障が頻発する」「耐用年数が近づき、生産性向上に限界がある」「市場の変化に対応できていない」などが挙げられます。前回で述べた「現状維持のリスク」が認識され、「何か解決策はないものか」と検討を始める段階です。

(3)ベンダーリストアップとショートリスティング

 課題に対する解決策に当たりをつけ、それを提供するベンダーを探す段階です。まずは対応できそうなベンダーの候補を、ある程度並べ(ベンダーリストアップ)、コストや信頼性、期待できる成果などからその候補リストを絞り込む(ショートリスティング)という順番で購買プロセスが進みます。

(4)購買交渉

 ショートリスティングによって、一定の候補リストに絞り込まれたら、各ベンダーと購買交渉を始めます。提案依頼書(RFP;Request For Proposal)や競合オリエンテーション、入札および価格などの条件交渉などがこれに当たります。

(5)社内承認と発注

 ベンダー選定の最終段階で、社内の承認を取る作業に入ります。国内では稟議(りんぎ)や、それに先立つ根回しが相当します。稟議などのプロセスを完了し、ようやく発注処理がされます。

(6)導入

 発注後、これまで使用していたサービスからの乗り換え作業や、新しく導入するための社内の告知、教育などがこの段階です。

 主にIT製品の販売活動と自身のマーケターとしての購買活動を行ってきた筆者の過去の経験から言うと、(2)課題認識から(5)発注までにおよそ9カ月から最大で18カ月かかる場合が大多数でした。しかし、(3)のリストアップとショートリスティングは約1~2カ月と短期間で絞り込みを終了しています。

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 リード管理とは、こうした顧客における購買サイクルをできる限りタイムリーに把握し、できるだけ早く次のステップに進めるように働きかけるためのマネジメントです。BANT条件を頼りに(3)や(4)の段階の顧客を発掘するだけでは、たまたま上(3)の段階にいる顧客だけが対象となり、どうしても不十分な結果に終わるのです。

BANT条件とは、 営業案件をセグメントしてフォーカスする条件として、1)Budget(予算)、2)Authority(決裁権)、3)Needs(必要性)、4)Timeframe(導入時期)の4つの条件を使う手法(※マーケティングキャンパスより引用)。

 案件候補として、BANT条件を満たさなくとも、また購買プロセスが(1)現状維持や(2)課題認識の前半であっても「リード」として管理し、常にどのステータスなのかを把握し、案件を育成することが必要になります。こうした前段階では営業部門はなかなか動いてくれないため、マーケティング部門が担当する必要があります。

 ただし、BANT条件を満たさなくともリードとして管理できる顧客は、どうしても数が限られてしまいます。だからこそ、連載第1回第2回で説明した、企業DBとデシル分析によるターゲティングが重要になるのです。