「開発は、アジャイル型でよろしく」。KDDIで、クラウドサービスの企画/開発に携わるメンバーにそんな指示が下ったのは、2013年夏のこと。指示を出したのは、ソリューション事業企画本部 クラウドサービス企画部長の藤井彰人氏だ。

 同社は法人向けに、IaaS(インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス)、PaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の各種サービスを提供している。ラインアップの一つとして新規開発したID管理サービス「KDDI Business ID」の開発プロジェクトで、アジャイルを選択した。

 「業務アプリケーションのように、正解通りに作ればよいサービスならウォーターフォール型でもよいだろう。だがクラウドサービスは、1年後の市場がどうなっているかも分からない。ウォーターフォール型を選ぶ理由がなかった」。前職のグーグルからKDDIに着任して間もなかった藤井氏。アジャイルは当然の選択だったと話す(写真)。

写真●KDDI ソリューション事業企画本部 クラウドサービス企画部長の藤井彰人氏(後列中央)と、プラットフォーム開発本部 クラウドサービス開発部長の上田茂広氏(後列右)、および企画/開発メンバー
写真●KDDI ソリューション事業企画本部 クラウドサービス企画部長の藤井彰人氏(後列中央)と、プラットフォーム開発本部 クラウドサービス開発部長の上田茂広氏(後列右)、および企画/開発メンバー
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「うちの会社では無理」という思い込みに変化

 それまで、同社は基本的にウォーターフォール型でサービスを開発してきた。またコーディングができる開発チームを自社内に持たず、外部のシステム開発会社(SI事業者)に委託する形を採っていた。問題として表面化していたわけではないが、社内にはこうした開発スタイルへの不満が少なからず蓄積されていた。

 ウォーターフォール型では後戻りが難しいため、基本設計時に完璧な要件を盛り込もうとする。このため予定の1.5倍ほどの時間がかかることもあり、開発期間が圧縮されてしまった。画面がリリースの間近に出来上がり、修正を加えたくてもできないということもあった。