③念入りに確認を取り合意形成する

 第1回で述べた通り,ヒアリングの最終的な目的は,利害関係者の間で合意形成することである。それには,先述したように本音を引き出すことが大きなカギを握るが,もう一つヒアリングにおいて重要なことがある。それは,案(仮説)に対して異論がないかどうか念入りに意見を聞くことだ。

 「つい言いそびれた」「言わなくても分かっているはず」「後で言えばいい」といった理由で,意見を言わないユーザーは少なくない。これを放置しておくと,「実は違う意見を持っていた」「言わなかったが,ヒアリングの場にいたときから反対だった」と後から異論が噴出する原因になりかねない。

 そこで肝要なのは,「ここで決定したことは後で変えられないと十分に認識してもらうこと」(ITコンサルタントであり,エンジニア向けの教育事業も手掛ける芦屋広太氏)である。そのために,もし後で変更しようとすると,納期遅れや追加コスト,品質の悪化などの面でどんな問題が発生するかを,できるだけ具体的に説明する。

 そのうえで,テーマごとに振り返って全員に「ここまではよろしいですか?」と念押しする。意見が出ないときはITエンジニアの側から,あえて案(仮説)の策定で苦労した点,気になっている点を挙げて,本当に問題や異論がないか再確認しておく。

 このとき重要なのは,主要な関係者一人ひとりを指名して満遍なく発言してもらうことである。「全員に発言してもらうことで,一人ひとりが意思決定のプロセスに参加した意識を持つことになり,決定事項に対する納得感が高まる」(アクセンチュアの渡部英男 マネジャー)。

聞いた内容を複数人ですり合わせる

 最後に,ヒアリングの締め括り方について触れる。基本的なことではあるが,ヒアリングの最後では,その場で聞いたことを簡単に振り返る。そのうえで,「今回は何を聞けなかったか」「それをいつまでにどうやって聞くのか」を明確にして今後の協力を求める。聞けなかったことが思い付かない場合でも,「後日またお伺いすることが出てくるかもしれませんが,そのときはよろしくお願いします」と断り,直接連絡してよいか確認する。

 ヒアリングを終えた後は,出席したエンジニアの間で,ヒアリングした内容の理解をすり合わせることも重要である。「ヒアリングの場では,相手が言った内容をきちんと理解できていないことも多い。複数人で振り返ると,正しく理解できていない部分があぶり出される」(イントリーグの永井氏)。間違って理解していると,後でユーザーとの間で「言った」「言わない」の水掛け論になりかねないだけに,エンジニア同士での理解のすり合わせは必ず行いたい。もちろん,そのためには,あらかじめヒアリング後の時間を確保しておくことが必要なのは言うまでもない