ここからは,ヒアリングの現場でのノウハウに入っていく。

 目的が「情報収集」と「合意形成」のどちらでも,ヒアリングの冒頭では,雰囲気を和ませる。いわゆる「アイスブレーク」である。特に初対面のときは,いきなり本題に入ると,最後まで無用な緊張感が続きかねない。そこで「天気や景気など話題は何でもよいので,最初に少し雑談する」(野村総合研究所の増田有孝 経営システムコンサルティング部長)ことを心掛けたい。話し下手な人でも,事前に話題を考えておけば,決して難しくないはずである。

 場が和んだら,メールで伝えた「プロジェクトの根本目的」や「ヒアリングの目的」「なぜあなたなのか」について改めて話す。そのうえで「何を聞きたいのか」を説明する(図3)。

図3●ユーザーの協力を得られるようにヒアリングの場の冒頭で伝えるべきこと
図3●ユーザーの協力を得られるようにヒアリングの場の冒頭で伝えるべきこと
上司に言われてヒアリングの場に来たユーザーは,趣旨を理解していなかったり,“やらされ感”にとらわれたりし がちだ。そこで,ユーザーに積極的に協力してもらえるように,ヒアリングの場の冒頭で伝えるべきことを挙げた。 ①②⑤はやる気を高める,②③④は何を話せばよいか分かるようにする,という効果を狙ったものである
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 ただし,「どういう視点に立ってどれだけ詳しく聞きたいのか」をユーザーに理解してもらうのは容易ではない。そこで,「プロジェクト全体の工程表を示し,『今日はここの部分に関して聞きたい』と説明する」(設計支援ツールなどのベンダーであるチェンジビジョンの平鍋健児社長)。あるいは「ヒアリング後に作成する成果物(ドキュメント)のサンプルを見せて,聞きたいことの具体的なイメージを持ってもらう」(NECの猪俣壮一 システム技術統括本部シニアマネージャー)などの工夫が効果的だ。

 次はいよいよ,ヒアリングの実施だ。ヒアリングの場で特に重要なことは,①発言の内容を深掘りし正しく理解する,②本音を話しやすい雰囲気を作る,③念入りに確認を取り合意を形成する─である。いずれもヒアリングの目的が「情報収集」と「合意形成」のどちらの場合でも大切だ。順に,具体的にどうすればいいのか見ていこう。