ヒアリングの準備で最も重要なのは,目的を明確化することである。「事前に目的を明確化しておかないと,準備が不十分になり,成果が上がらない」(日立製作所の水田哲郎 ビジネスシステムコンサルティング部長 上席コンサルタント)。目的を明確にするのは当たり前に思えるかもしれないが,「不十分なままヒアリングに臨むエンジニアは案外多い」(同)。

 水田氏によれば,ヒアリングの目的は大きく二つに分けられるという。一つは,情報を収集すること。もう一つは,その情報を基に策定した案(仮説)をユーザーにレビューしてもらい合意形成することである。システム企画,要件定義などの上流工程は,この「情報収集」と「(仮説に対する)合意形成」を繰り返すことで進んでいく。

 ヒアリングの目的が「情報収集」の場合と「合意形成」の場合では,準備すべき作業は変わってくる注1。「情報収集」の場合はヒアリング項目のリスト作成が不可欠になる。これに対して,「合意形成」では仮説の立案とその妥当性を判断する材料の用意が重要だ。

注1) 準備すべき作業ベンダーのITエンジニアが最初にユーザーからヒアリングする際には,リスト作成以外に,そのユーザーに関する基本的な知識を事前に仕入れておくことも欠かせない。営業担当者から情報を聞くのはもちろん,同業他社の事例なども調べておきたい。また早い段階で,決算報告書,定例会議の議事録,業務マニュアル,帳票類,伝票類,既存システムの仕様書などをユーザーから提供してもらい目を通しておくことも重要だ。

 以下では,①ヒアリング項目のリスト作成,②仮説立案と判断材料の準備,③ヒアリング対象者の人選,④ヒアリング対象者への通知,という主要な準備作業ごとに,注意すべきポイントを紹介していこう。