ITエンジニアにとってヒアリングとは,ユーザーとのコミュニケーションの根幹を成す。難しい合意形成の成否も,聞き方一つで大きく変わる。第一線で活躍するITエンジニアやコンサルタントが現場で培ったヒアリングのテクニックをまとめた。

 日本ヒューレット・パッカード(HP)の伊吹進吾 ITコンサルティング本部エクスプレスサービス部コンサルタントは,ヒアリングに関する苦い経験を忘れられないでいる。

 5年前のこと。当時,キャリア3年目で,技術力に自信を持ち始めていた伊吹氏は,得意先のユーザー企業A社に足を運んだ。ユーザーの要求を踏まえて策定したサーバー構成案に関して,意見をヒアリングするためだ。

 伊吹氏は自信をもって案を説明したが,システム部門のキーパーソンの1人であるB氏は受け入れず,「別の案も検討すべき」とその説明を始めた。説明を聞くうちに伊吹氏は「自分の案の方が良い」と確信。B氏の話を途中でさえぎって論破し,案を引っ込めさせた。

 その後しばらくたったころ,伊吹氏は「B氏に避けられている」と感じ始めた。以前のようにB氏が相談を持ちかけてくることがなくなったのだ。A社の担当である伊吹氏にとって,見過ごせない事態だった。悪い予感は的中した。A社の担当ではない同僚のSEに「B氏から新しい案件の相談を受けた」と聞かされたのだ。B氏に見限られたことは,明白だった。挫折感と精神的な重苦しさが,伊吹氏にのしかかった。

 伊吹氏は「B氏の案をきちんと聞いたうえで話し合っていれば」と後悔したが,後の祭り。B氏の信頼を再び得ることはできなかったという。