黙っていると損するばかり
二重、三重価格も当たり前

 パブリッククラウドに対してコストメリットを期待するシステム担当者は多い。だが、実際にはオンプレミスより高いケースも珍しくない。なぜ高いのか。コストが高くなる要因を知り、削減のための工夫へとつなげよう。

 「パブリッククラウドなのに、なんでこんなに高いのか」―。

 ある建設会社のシステム部長・A氏は、システムインテグレーターから提示された見積書の金額を見て驚いた。提示された金額は約2億円。基幹システムの多くを移行するとはいえ、従来の自社所有(オンプレミス)のシステム構築・運用コストとほぼ変わらない金額だったからだ。

 A氏は「まさかパブリッククラウドの価格がこれほど高いとは思わなかった。コスト削減が大きな目的だっただけに、経営層への説明をどうすべきかとても悩んだ」と打ち明ける。

 その後A氏は、いったんパブリッククラウドの導入を諦め、パブリッククラウドの知識を習得した上で改めて導入に挑戦した。「いろいろ勉強してコスト削減の勘所が分かった。あのとき高額な見積もり額を承認しなくて本当によかった」とA氏は話す。当初2億円だったコストは、値引きも含めて約1億円と、5割程度まで削減できた。

コストはオンプレミスとほぼ同じ

 A氏のように、当初クラウドによってコスト削減を目論んだものの、そのコストの高さに驚くケースは少なくない。不幸なのは、高額なコストで導入してしまったケースである。

 日経BP社はパブリッククラウドが広がりを見せていた2013年、「システム運用実態調査」を実施した。それによると、パブリッククラウドを利用して分かった課題としてトップだったのが「オンプレミスよりもコストがかかる」ことだった。その回答数は約3社に1社に上り、2位の「サービスの継続性が分からない」、3位の「機能面で利用部門のニーズに応えられない」という課題を大きく引き離す。つまり、3社に1社はパブリッククラウドの高額なコストにあえいでいるのだ。

 そもそもパブリッククラウドは、クラウド事業者が用意したサーバーやストレージを多くのユーザーで共有してコストを安くするもの。負荷に応じて柔軟にリソースを追加できる点も、初期コストを抑えられる特徴である。

 にもかかわらず、多くの場合、そうした期待は見事に裏切られる。冒頭のA氏の場合、5年間のコストがオンプレミスとほぼ同じ。そのとき検討したのは、話題に上ることが多い「Amazon Web Services(AWS)」である。実は「パブリッククラウドのコストはオンプレミスとほぼ同じ」という声は少なくない。

サービスレベルがコストに影響

 なぜ、AWSをはじめとしてコストメリットをうたうパブリッククラウドが多い中で、オンプレミスと同じ程度のコストになるのか。理由の一つは、構築するシステムの「サービスレベル」にある。できるだけシステムが停止しないようにし、もし停止したときにはあらかじめ決めた時間内に復旧させる。そのために、冗長化したり、オプションを契約したりすることで、コストが積み上がるのだ。

 クラウド料金に詳しいSoftwareONE Japanの上原哲哉氏(ディレクター ライセンスソリューション サービスグループ)は「移行するシステムや運用の仕方、買い方次第でコストが大きく変わるのがパブリッククラウド」と強調する。パブリッククラウドは、移行するシステムのサービスレベルが高くなるにつれて、オンプレミスよりも割高になる傾向がある。

 また、「仮想サーバー(インスタンス)の買い方には注意が必要」と上原氏は言う。例えばプリペイド型で1年分を一括して購入するケースが多いが「せっかく購入したのに使い切れず、かえって無駄なコストを支払う場合が多い」と警鐘を鳴らす。