今ではその名を聞くことも少なくなったPHS(Personal Handy-phone System)は、決して新しい技術ではありません。けれども、PHSならではの特性を生かしてIoTやM2Mという新しい分野で活躍しています。

 PHSには従来の規格と、より高速な高度化PHSの規格の2つがあります。今回は、IoTやM2Mで使用されている従来のPHSについて説明します。

PHSの技術仕様

 従来規格のPHSは、電波産業会(ARIB)の「RCR STD-28 第二世代コードレス電話システム(Personal handy phone System)」という標準規格として定められています。

 PHSには、1.9GHz帯の周波数帯が割り当てられています。PHSが誕生した当初は1893.65MHz〜1897.85MHzでした。その後高度化PHS用として低い周波数帯域での割り当てが増え、また第3世代携帯電話(3G)との干渉回避のために高い帯域の一部が使用不可になったため、現在は屋外公衆用に1884.65MHz〜1915.55MHz、自営用に1893.65MHz〜1897.85MHzが使われています。

 PHSでは、多重数4のマルチキャリアTDMA-TDD(Time Division Multiple Access - Time Division Duplex)という無線アクセス方式を使って通信します。端末から見て送信(上り)と受信(下り)で同じ周波数を使用し、決まった時間で区切って送信と受信を交互に行います(TDD)。送信と受信の組をフレームと呼び、1フレームは5ミリ秒です。このフレームを送信と受信、それぞれ4つずつのタイムスロットと呼ばれる区間に区切って、複数の端末と通信を行います(TDMA)。

 変調方式はπ/4シフトQPSK、BPSK、8PSK、12QAM、16QAM、24QAM、32QAM、64QAM、256QAMが規定されています。要求されるデータ通信速度や無線状態に応じて変調方式を切り替える、適応変調方式を採用することもできます。

 スマートフォンなどで主流のLTEと比べてPHSの通信速度は数百kビット/秒とあまり速くないため、大容量のデータを高速で送受信できません。それでも、IoTやM2Mの通信では一度にやり取りするデータ量は多くないため、十分に賄うことができます。

 またPHSは端末の最大送信出力が10mW以下に定められているなど、他の通信方式よりも出力が低く、低消費電力という特徴があります。このためPHSはIoTに向いていると言えます。こうした特徴を生かし、IoTやM2Mに向けたPHS製品が開発され、利用されています。

 PHSの動作モードには、事業者がサービスの提供を行う「公衆網モード」、構内交換機を介した社内の内線電話など特定の範囲内で使用する「自営モード」、2台の端末同士で通信する「トランシーバーモード」があります。それぞれ個別に動作するほか、モードを切り替えて動作させたり、2つのモードで同時に待ち受けすることができます。

 公衆網モードによる移動通信サービスは、ソフトバンクが「Y!mobile(ワイモバイル)」という名称で提供しています。