あらゆるモノがインターネットにつながる「Internet of Things」(IoT)が着実に前進しています。ガートナーの試算によれば、2020年までに260億個のセンサーがインターネットにつながるということです。毎年1兆個のセンサーが使われる社会を創り上げる「Trillion Sensors Universe」という構想も示されています。社会全体をセンサーで覆いつくすことで、エネルギー、食糧、医療、災害対策などの地球規模の課題への取り組み、そして第四次産業革命ともいえる産業界の変革が期待されているのです。

 そうしたIoTを活用する社会の実現には、生み出される膨大なデータをいかにさばき、活用していくかが重要となります。その鍵となるのがクラウドです。今回は、IoTにおけるクラウドの役割について解説します。

IoTで重要となる「データのPDCAサイクル」

 筆者が勤めるインフォコーパスでは、主に企業向けのIoTビジネスを行っています。最近よく聞かれるのが、「IoTは何の役に立つのか」「どこから始めればよいのか」という問いです。IoTはデータ経営のための手段の1つとして捉えており、センサーで多様な情報が観測でき、大量のデータを処理し分析できる時代になって、今こそ、役に立つデータを集めて経営に資する知見を得ることができるのです。従来のような“経験や勘”ではなく“データ”で判断するための情報を生み出すことこそ、IoTの役割であると考えています。

 IoTから有用な知見を得るためには、データの収集、管理、可視化、分析(評価)という一連の流れである「データのPDCAサイクル」を回し、仮説を立て、それを検証していくことが重要です(図3-1)。具体的には、センサーを使って必要なデータを適切なタイミングで取得し、そのデータをクラウドに集約して格納・管理し、さらに人が理解できる形で様々な軸から可視化し、それと同時にリアルタイムに、あるいは蓄積した大量のデータを適切なアルゴリズムを用いて分析・評価を行う---というサイクルを繰り返します。

図3-1●データのライフサイクル(出典:インフォコーパス)
図3-1●データのライフサイクル(出典:インフォコーパス)
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様々な分野に広がるIoTの適用事例

 IoTの適用はこれからだと思われがちですが、実はIoTという言葉が発明される以前から、多くの取り組みがなされています。防災・気象インフラ、交通管制や鉄道インフラがその典型例です。また、コマツのKOMTRAXは建設機械の各種情報を遠隔で管理する仕組みであり、先駆的取り組みであると言えるでしょう。交通ICカードは乗降車履歴や電子マネー機能だけでなく、センサーとして身の回りにある機器と様々な連携ができるインフラです。スマートエネルギー分野でも、ビル管理(BEMS)、ホーム管理(HEMS)など既に取り組みが進んでいます。物流業界では、配送物のトラッキング、配送経路の最適化、環境負荷の軽減などにIoTが活用されています。フィットネス向けウエアラブルIoTは、今や日常生活に溶け込んでいる事例でしょう。

 一方で現場に目を転じてみれば、目の前の業務をいかに改善し効率化するかという課題があります。工場のラインなどでは今も既に様々なデータが得られているものの、手元のPCにデータを移してその場で目視で確認するのに留まっていて、全社で共有されていないというケースも多いのです。センサーデータを自動収集するIoTの仕組みを作ることで、現場でデータを収集する人員は不要になり、データを全社的に共有し分析につながります。

 私たちが関わっている範囲だけでも、従来の監視系のリモート化、機器の劣化検知、工場の温度・湿度管理、現場騒音のリモート監視、機器ごとの保守履歴との照合、屋内・家電の状態監視(ドアの開閉、温度、人感)、商品の個数管理や棚卸業務の効率化など、現場の改善の種は数えきれないほどある、というのが率直な印象です(表3-1)。

表3-1●IoTの分野別適用状況(出典:インフォコーパス)
表3-1●IoTの分野別適用状況(出典:インフォコーパス)
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