写真1●60年前に寄贈した黒板に文字を書くサカワ3代目社長の坂和壽々子氏
写真1●60年前に寄贈した黒板に文字を書くサカワ3代目社長の坂和壽々子氏
[画像のクリックで拡大表示]

 松山城から北東にクルマを10分走らせたところに1533年創立の鷲栄山妙清寺がある。同寺院は、火災や戦火による焼失、再興を繰り返し、今の場所に落ち着いた。この妙清寺の本堂に、今も現役として利用され続けている古い黒板がある。

 愛でるような眼差しで黒板を見つめる老齢の女性がいた。今年86歳を迎えるサカワ社長の坂和壽々子氏だ(写真1)。青いチョークで自身の名前と生年月日を書いてみる。「音が柔らかいね。今の黒板とは全然違うね」(壽々子氏)。

 サカワがこの黒板を妙清寺に寄贈したのは60年前になる。サカワにとって現存する黒板で最も古い黒板だ。「新しい黒板に取り換えると言っても住職がこれがいいと言うもんだから」。壽々子氏はうれしそうに言う。

夫の急逝、社長として駆けずり回る日々

 壽々子氏が3代目の社長に就任したのは1969年。39歳だった。夫で社長だった真道氏が急逝。「主人が死んだとき、どんなして食べていこうかと思いましたよ」と壽々子氏は振り返る。クルマの免許を取って既に営業や納品の手伝いをしていた壽々子氏は、四国中を駆けずり回った。

 「暗くなった山道が怖くて怖くて。街の光がぱっと見えるとほっとしてね」。壽々子氏は営業に納品に奔走するかたわら、どうしても自身で習得せねばとこだわった技術がある。「線引き」だ。