写真1●NECの江村克己執行役員
写真1●NECの江村克己執行役員
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 「当社は今、R&D(研究・開発)の方針として現業重視の姿勢に大きく舵を切っている」――。NECのR&Dを統括する江村克己執行役員はこのように語る(写真1)。同社が事業展開している分野を強く意識した研究活動に重きを置くように、R&D活動の路線変更を図っている。

 これはNECの事業戦略そのものの転換に起因する。同社は2013年4月、社会ソリューション事業を中軸に据えることを宣言し、経営資源を集中。大規模な機構改革に着手した。その影響はR&D部門にも及んだ。

 「社会の課題を起点に考えなければ始まらない。従来のようなテクノロジーアウト型の発想では事業貢献が難しくなった」と、江村執行役員は明言する。「将来予想される姿から逆算して解くべき社会課題を絞り込む。それに当社が強みとする技術分野をマッチングさせていく必要がある」(江村執行役員)(図1)。

図1●NECが掲げる社会課題
図1●NECが掲げる社会課題
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タクシー配車の最適化で乗客数が10%超上がった

 例えばNECのR&D部門は、IoT(Internet of Things)システム向けに「自律適応制御技術」を開発した。サブシステムが自律的に制御処理する独自の分散アルゴリズムによって、システム全体の最適化を達成する。シミュレーションの段階だが、タクシー配車の最適化で乗客獲得数を10%超上昇させるという成果を出している。

 自律適応制御の特徴は、「Aという条件が生じればBという制御を行う」といった制御ルールを事前に設けない点だ。NECが主戦場にしようとする社会インフラの世界では、突発的な事件や事故、災害など複雑な環境変化が生じる。「当初は全体最適を実現する制御ルールを作ることを目指したが、変動要素が多すぎて無理だと判断した。そこでアプローチを変えた」と、クラウド研究所の小川雅嗣主任研究員は説明する。

 自律適応制御の研究に当たっては、アメーバの捕食行動に着想を得た。脳のような中央機関を持たずして、エサを効率的に食べるために身体の形状を変化させる点にヒントがあったという。

 IoTによって社会インフラを制御する動きが本格化するのはこれからだ。その際、どういった課題が生じ得るかを予想した上で、R&Dのアプローチを変えなければならない。「ムーアの法則のような明確な技術トレンドがあり、すべきことが決まっていた時代ではもはやない」と、江村執行役員は話す。研究テーマが既存技術の延長線上にないのが難しい点だ。