グーグル傘下の動画サイト「YouTube」とSNS世界最大手の「Facebook」が、動画マーケティング分野で覇権を争っている。一芸や特定テーマで人気を呼ぶ動画投稿者「YouTuber(ユーチューバー)」は、単なる商品紹介を超えて訪日外国人を誘致する有力手段として台頭。ゲーム実況動画が爆発的な人気を呼ぶなど、勢いは増す一方だ。かたやFacebookは企業がブランド認知を高める手段として、YouTubeを上回る人気ぶりを見せる。

 東京・品川区の旗の台。私鉄の駅からほど近い路地裏にある焼き鳥屋「鳥樹」が、時ならぬ外国人ブームに沸いている。

写真1●「日本の『おもてなし』は素晴らしい」と語るロンさん
写真1●「日本の『おもてなし』は素晴らしい」と語るロンさん
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 「この鳥わさ、すごくおいしい。米国ではとても食べられません」。米カリフォルニア州在住の観光客、アディ・ロンさんは満足げだ(写真1)。鳥樹を訪れるのは2度目で、一通りのメニューを食べたという。「店の雰囲気もメニューも、全部気に入りました」。

 ロンさんをはじめ、鳥樹には外国人観光客が次々に訪れる。店周辺は商店街と住宅街で、観光地のイメージは薄い。ましてや外国人観光客を惹きつける要素があると感じる人は少ないだろう。

写真2●「最近は英語の勉強を始めた」という鳥樹の店長
写真2●「最近は英語の勉強を始めた」という鳥樹の店長
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 「元々は鳥料理が好きな日本のお客さん向けの店。外国人向けの宣伝は一切していない」。鳥樹の店長はこう語る(写真2)。急な外国人客の増加に最初はとまどったというが、「日本人でも外国人でも、お客さんはお客さん。うちの鳥料理を楽しんでもらうだけ」(同)。

 ロンさんが鳥樹を知るきっかけになったのは動画サイトYouTubeのある番組だ。その名も「アンソニー世界を食らう」。男性キャスターが世界各地をめぐり、地元人が主体の飲食店を紹介する。鳥樹は、この番組に取り上げられた。

 実は今、外国人が外国人に向けて日本の魅力を発信するYouTubeのチャンネルが、訪日外国人を誘致する手段として存在感を増している。鳥樹のようなこだわりの飲食店をはじめ、コンビニエンスストアの商品やラーメン、地方都市など、内容は様々だ。

 「インバウンド(訪日外国人)向けの引き合いが急増している」。こう語るのはYouTube向け動画制作を手掛けるYummy Japan(ヤミージャパン)の小太刀みちえ社長だ。同社はグーグルが認定するYouTube番組の制作・配信事業者である「MCN(マルチ・チャンネル・ネットワーク)」の1社。日本に10社程度あるMCNのうち、同社は「フード(食)」をテーマにした唯一の企業だ。今年5月にはネット広告大手のデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムの出資を受けた。

写真3●外国人の女性が日本の「ディープな」スポットをまわる
写真3●外国人の女性が日本の「ディープな」スポットをまわる
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 同社には現在、70~80人の外国人がYouTuberとして登録。配信しているチャンネル数は40を超える。その一つ「Deep in Japan」は、外国人の若い女性が、日本の「ディープな」食のスポットをめぐるというもの。この番組でも鳥樹が紹介された(写真3)。