第3回はAWSとAzureを用途に応じて使い分ける積水化学工業の事例を紹介する。同社はグループの約2万人が使うグループウエアを、2013年から2014年にかけてオンプレミス(自社所有)環境から米アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)のクラウドサービスに移行した。
 しかし、海外拠点のERP(統合基幹業務システム)統合では、日本マイクロソフトのパブリッククラウドサービス「Microsoft Azure」の採用を決めた。AWSではなくAzureを選んだ理由は、海外拠点のERPとしてマイクロソフト製品の「Dyanmics AX」を利用していたことが大きい。2014年7月に日本マイクロソフトとインターネットイニシアティブ(IIJ)が、Azureの閉域網(専用線)接続サービスである「ExpressRoute」の国内提供を発表したことも理由の一つだ。
 同システムのアプリ側の担当である積水化学工業 経営管理部情報システムグループの小笹淳二理事と、インフラ側の担当である経営管理部情報システムグループの上野茂樹担当部長に、Dynamics AXによるERP標準化の狙いやAzure採用の経緯を語ってもらった。

 積水化学工業は2015年1月、海外拠点のERP(統合基幹業務システム)を統合するために、Azureの採用を決めた(関連記事:積水化学がAzureの閉域網接続サービス初採用、ERPのグローバル統合に活用)。2015年9月時点でAzureの仮想マシンサービスである「Azure Virtual Machines」を30台利用している。

写真1●経営管理部情報システムグループの小笹淳二理事
写真1●経営管理部情報システムグループの小笹淳二理事
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 同社は2009年から2011年にかけて、海外での大型のM&A(合併・買収)を実施した。小笹氏は「海外拠点の売り上げなどをいち早く見える化するため、2011年ごろからERPの標準化を進めてきた」と話す(写真1)。

 国内向けのERPは自社開発したが、海外拠点では標準ERPとしてマイクロソフトの「Dynamics AX」の導入を進めている。中国、台湾、シンガポール、タイ、インドネシアにある15社の拠点でDynamics AXを導入済みだ(写真2)。

写真2●アジア拠点におけるERPの導入状況(積水化学工業の資料を抜粋)
写真2●アジア拠点におけるERPの導入状況(積水化学工業の資料を抜粋)
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導入実績と受け入れやすさでDynamics AXを選択

 Dynamics AXを標準ERPとした理由について、小笹氏は「いくつかの拠点で導入実績があった。もう一つは海外拠点で認知度が高いマイクロソフトの製品なら、受け入れてもらいやすいと考えた」ことを挙げる。

 海外拠点は数人から多くても数百人の中小規模がほとんどだ。従来は各拠点で異なるERPパッケージを使っていた。今回の標準ERP導入の目的は「本社の統制強化が一番で、各拠点の利便性向上などは基本的に対応しない」(小笹氏)方針だった。