テクノロジーの力を借りて、教育の姿を一変させる試みが相次ぎ始まっている。人工知能が教師を務める学習塾が登場したほか、保育の現場に教員のアシスト役になるロボットを持ち込むところも出てきた。「エドテック」--。従来の教育スタイルをITの力を借りて変えようとする動きはこう呼ばれる。生徒・児童にとっても、親にとっても、さらに教師にとってもこれまでの教育の常識が通用しない世界がやってきた。

さらば集団型教育

 教壇に立つ一人の教師が、数十人の生徒を相手に一斉に授業――。学校/塾を問わず、日本の教室では長らくこんな光景が一般的だった。それが今、少しずつ変わり始めている。ITを活用し、一人ひとりに適した教育を実現しようとするアダプティブ・ラーニング(適応学習)などと呼ばれる学習スタイルの登場がその一つだ。

 「一方通行の集団授業には、限界がある。小学生では3割、中学生で5割、高校生になると7割の児童/生徒が授業についていけないといわれる」。そう話すのは、COMPASSのCEO(最高経営責任者)を務める神野元基氏。“人工知能型”と呼ぶタブレット向け教材「TreasureBox(トレジャーボックス)」の開発を手がけている。

 TreasureBoxは、子供たち一人ひとりに適した問題を出すことで教育効果を高めることを狙った教材だ。問題を解くスピードや解答、さらにその解答を導き出すまでの過程を解析し、子供一人一人の理解度を正確に把握する。

図●誤答をした原因を特定し、適切な問題を出題
図●誤答をした原因を特定し、適切な問題を出題
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 例えば数学の一次方程式の単元の場合。答えが誤っている生徒の計算過程を自動的に分析したうえで、ミスの原因が「分配法則」か「移項」かといったことを把握。そして適切な復習問題を提示する。「先生と生徒が1対1になった授業が可能になる」(神野氏)。

 ポイントは教材の質にある。豊富な講師経験を持つ専任スタッフが、生徒がつまずきやすい箇所はどこか、それを理解させるにはどんな復習をさせたらよいか考えながら問題を作成。生徒の学習履歴を蓄積・分析し、問題の中身をブラッシュアップしていく。

 現時点で完成しているのは中学1年生用の数学の問題。これを使って実証実験を行っている。同社が運営する学習塾に試験導入したところ、目覚ましい効果が出た。2015年3月、中学校入学を控えた小学6年生に、中学1年生向けの数学の学習内容をTreasureBoxで教えた。学校では14週間かけて教わる内容だったが2週間で済ませた。テストの点数は受講生全員が学校の平均点を上回ったという。