「一連のMTGOX事件で、ビットコイン全体が危険だと考える人々は決して少なくないだろう」――。NRIセキュアテクノロジーズの木内雄章上級セキュリティコンサルタントは、このように指摘する(関連記事:[1]「トップページが真っ白に」、MTGOX被害者が明かす当時の状況)。

 しかし、ビットコインの信頼性と取引所の信頼性は全くの別物だ。大手取引所「Kraken(クラケン)」を運営するペイワード・ジャパン代表の宮口礼子氏も「取引所はあくまでビットコインネットワークの一部にすぎない。MTGOX事件は“ビットコインだから”起こったわけではない」と主張する。

 今、ビットコインの中核技術「ブロックチェーン」を、通貨以外の取り引きに拡張・転用するサービスやプロジェクト、「ビットコイン 2.0」が世界的に活況を呈している(図1)。ブロックチェーンが、革新的サービスの土壌になるという期待は高まっており、金融機関が現在保有する重厚なシステムを置き換える可能性すら提示されている。

図1●「ビットコイン 2.0」に分類されるプロジェクトの例
図1●「ビットコイン 2.0」に分類されるプロジェクトの例
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 ブロックチェーンとは、P2P技術をベースとした分散型データベースのこと。ビットコインの場合、ブロックチェーンにビットコインの全取引が記録されており、P2Pネットワークに参加するノードが互いにチェックすることで、不正や二重払いを防いでいる。

 ブロックチェーン技術を使った取り引きは、ビットコインのような“通貨”に限定されない。一定の信頼の基にやり取りされる、株式や証券などの取引基盤とすることも可能だ。実際、米国の大手金融機関ではブロックチェーン技術の検証などを進めている。近い将来、金融機関は巨大で高額なシステム資産から解放されるかもしれない。

 こうした動きがあるなかで、「何だか怪しい」として、ビットコインに代表される暗号通貨そのものから目を背けてしまうのは得策ではない。日本での暗号通貨への取り組みが下火となれば、技術研究の分野で世界の動きから後れを取ることになりかねない。