個人間ECサービスでの取引で多く見られるノークレーム・ノーリターン特約。企業間取引でも「現状有姿売買」という概念がある。果たして、どこまでこの特約は有効なのか。ネットオークションの売買に関する二つの判例を基に考察する。

 最近、消費税増税のあおりを受け、個人間ECサービスが広がっている。ネットオークションもそうだが、出品者が「ノークレーム・ノーリターン」の注意書きを付けて出品する例が多数見られる。今回は、このようなノークレーム・ノーリターン特約の有効性に関する裁判例を見ていこう。

 ここで解説する考え方が有効なのは、個人間取引だけでない。企業間での「現状有姿売買」(現状あるがままの姿での売買)にも通じる。現状有姿売買は、企業から事業やサービスを有償で譲り受けるケース、倒産企業から機材やシステムなどを購入するケースを想定すると分かりやすいだろう。

 2004年4月15日に東京地方裁判所が下した判決がある。この裁判は、ネットオークションを通じて、「アルファロメオ164」の中古車(本件車両)を購入した買い主が、車両に損傷などがあったことを理由として、売り主に損害賠償を求めた事案だ。

 売り主は出品に際し、写真を掲載した上で、バンパーやドアなどに複数のすり傷やひびがあることなどを具体的に挙げ、「出品物がお車ですので、それぞれ見方、取り方が違うと思いますので低年式、中古車だという事にご理解頂ける方のみ入札してください。ご理解頂けない方の入札、ご遠慮頂けますようお願い致します」(原文ママ)との断り書きを掲載した。

 入札の開始価格は8000円と設定されていたが、買い主が6万4000円で落札し、搬送費用と入札手数料を加えた11万円強を売り主に支払った。

 しかしその後、車両には上記で指摘されていたもの以外に、「ガソリンタンクのガソリン漏れ」「センターマフラーの欠落」「電動ファンの錆」「ショックアブソーバーが機能しない」「タイヤの劣化」「左ドアノブが壊れており、外からドアが開けられない」「右ウインカーの欠落」「運転席ドアがきちんと閉まらない」といった損傷があることが明らかになった。

 そこで買い主は、上記代金に、修理費用や慰謝料などを加えた合計76万円強の損害賠償を請求した。

 一審の東京簡易裁判所は、売買価格が同年式同車種の価格と比べて極めて低いことなどから、請求を棄却した。