2008年3月、スルガ銀行は日本IBMを訴えた。システム開発頓挫の責任をベンダーとユーザーが押しつけ合った。ベンダーのマネジメント義務違反か、ユーザーの協力義務違反か。最高裁がスルガ銀行に軍配を挙げたことで7年に及ぶ裁判がついに終焉を迎えた。


 本連載では、主にIT企業に関連する裁判例や近時のトピックを取り上げ、IT企業が法務面で留意すべき事項を指摘していく。第1回は、著名事件である「スルガ銀行 vs 日本IBM」事件の高等裁判所判決を見ていこう。本連載では紙幅の都合上、事案や判旨をかなり省略することが出てくるが、ご容赦願いたい。

 2008年から続いた、スルガ銀と日本IBM(以下、IBM)の訴訟。一言で言えば両社が契約を結んだシステム開発プロジェクトが頓挫した原因がどちらにあるのかということを争い続けた。

 スルガ銀はベンダーであるIBMが果たすべき義務、つまり高度な専門的知識と経験に基づいて開発作業をマネジメントしなければならない「プロジェクトマネジメント義務」の違反が原因と主張。対するIBMはシステム開発はあくまでもベンダーとユーザーの共同作業であり、ユーザーもまた開発に必要な協力をすべきという「協力義務」の違反が原因と主張した。

 最初に訴えたのはスルガ銀だ。IBMに対して既に支払った業務委託料及び損害など、合計約115億円の支払いを求めて提訴した。これに対し、IBMは業務委託料の残代金など、合計約125億円の支払いを求めて反訴した。

 第一審の判決では、スルガ銀の主張が認められた。IBMに対し、システムが完成していれば得られていたとする利益を除き、スルガ銀が支払った金額全額の約74億円の支払いを命じた。

 そもそもプロジェクトが頓挫した原因は、本判決によれば「Corebank」というアプリケーションパッケージにあるようである。この製品は海外の銀行でこそ稼働実績があったものの、邦銀で使用されたことは無かった。

 IBMはこのCorebankを用いた新システムをスルガ銀に提案し、スルガ銀もまたこれを了承した。だが、計画・要件定義が進むにつれ、暗雲が立ち込め始める。スルガ銀が現行システムに実装していた機能と、Corebankの持つ機能にギャップがあることが徐々に判明してきたからだ。