プロジェクト失敗のすべてが見積もりに起因するということはありませんが、見積もりを疎かにしてはプロジェクトの成功がままならないことも事実です。前回示した事例(1)では、ユーザーの要求を確認せずに、過去の類似事例の実績(コスト)をそのまま使ってしまい、問題となりました。これは、適切な見積もりプロセスを踏まえなかったことが原因といえます。

 今回は、見積もりプロセスとは何か、なぜ重要なのかについて説明します。また、見積もりプロセスの流れと具体的な作業について、ユーザーとベンダーそれぞれの役割も含めて示します。最後に見積もりプロセス適用時の留意点を説明します。

見積もりプロセスとは何か

 「見積もりプロセス」とは、ユーザーが求めるシステムに関してユーザーとベンダーの双方で要件を確定させ、必要なコストについて合意するまでの過程のことです。

 量産型工業製品の製造では、完成した製品が決められた価格で提供されます。一方、システム開発ではユーザーのイメージした要求を基に、ユーザーとベンダーが共同で要件を具体化、詳細化し、実現のためのコストを見積もり、合意するという過程を経て、価格が決まります。この過程が見積もりプロセスです。見積もりプロセスに沿って見積もることで、ユーザーとベンダーの双方が納得でき、精度の高い見積もり結果が得られます。また、結果としてプロジェクトのリスクを低減できます。

 見積もりプロセスには別の側面もあります。見積もりはユーザーとベンダーの最初の協力作業であり、両者にとって開発パートナーとしての関係を築く大切な機会です。見積もりプロセスという共通の土台に立つことで、作業内容や役割についての認識のずれを回避し、信頼関係を築くことが可能となります。