AGC旭硝子(以下、AGC)では、2015年から基幹システムでパブリッククラウド「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」を使い始めた。現在、物流や販売などを担う国内向け基幹システムを、AWSのIaaS(インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス)である「EC2」上に移行している。本格稼働は、2016年春を予定している。2018年までには、基幹システムの7~8割をクラウドに移行する計画だ。

 周囲を見渡すと、このところ同様の検討を進めている企業が急激に増えているように感じる。動機は「今よりコストを下げたい」「経営状況に合わせて柔軟にサーバー数を増減させたい」「そこそこのコストでBCP(事業継続計画)対策をしたい」など、IT部門にとって普遍的なテーマではないだろうか。

 「実際に検討を始めたが、なかなか上層部が“クラウドを使っていい”と言ってくれない」という話をよく聞く。また、AWSのIaaSを企業の共通基盤として使うとなると、思いのほか考慮すべき点が多いことに驚かされる。

 今回から5回にわたって、実際にAWSを導入したユーザー企業として、AGCの情報システムセンターが経験してきたことをそのままお話したい。我々がAWS導入に当たって、どんなことを“壁”に感じ、それをどう突破してきたのかをお伝えする。

最初の壁はサービス選定

 AGCがAWSの導入を検討し始めたのは2014年。あるシステムのハードウエアが保守切れを迎えることがきっかけだった。従来はメインフレーム上で動作していた専用システムだったが、保守切れを機に欧州SAPのERP(統合基幹業務システム)を採用して一から作り直すことになった。その動作環境として、オンプレミスかクラウドかを検討した。

 クラウドを選択した主な理由は、「システム開発/運用のコストや作業負荷を下げたい」「現実的な金額でBCP対策を実施したい」の2点。いずれもクラウド活用の利点として代表的なものだ。長期にわたって保守/運用し、万全なBCP対策が求められる基幹系システムこそ、クラウドのこうしたメリットが生かせると考えた。そこで、本腰を入れて検討を進めた。

 その際に直面した最初の壁は、「どのクラウドサービスを選べばいいの?」ということだった。昨今のクラウドブームのおかげで、一般のユーザー企業では把握しきれないほどクラウドサービスの選択肢は多くなってきている。

 まずは手軽に使い始められることを重視してサービスを選び、システムの規模が大きくなるにつれて使うサービスを増やしたり、切り替えたりするという方法もある。だが「その考え方は危険だ」と我々は直感的に感じていた。基幹システムのプラットフォームとしてIaaS環境を用意するというのは、オンプレミス環境のデータセンター設計に近い検討が求められる。短期間でサービスを切り替えることになれば一から検討し直すことになるため、無駄が大きい。