ITサービスの好事例集「ITIL(Information Technology Infrastructure Library)」は、運用改善・オペレーションマネジメントの仕組みとして大変優れている。だが、IT以外の業種・職種では活用はおろか、認知もされておらず実にもったいない。

 この連載では、ITの運用以外の職場も例にとり「そもそもITILって何?」「ITILを活用するとどんないいことがあるのだろう?」を様々な視点で分かりやすく解説する。今回は「ナレッジ管理」を理解しよう。

【「ナレッジデータベースなんて誰も見ないよ」】
海外営業部 小松秀一の諦め

 自動車会社で海外営業部門のマネージャを務めている小松秀一(こまつ しゅういち)、43歳。海外100カ国の販売統括会社へのマーケティングとセールスサポート、および輸出管理などが彼の所属する部門のミッションだ。小松が担当するのは主に中南米地域。ほかに、中近東、欧州、アジア、アフリカなど地域ごとに管轄する営業担当チームが分かれている。

 ある日、営業管理部から「ナレッジデータベース」の運用を開始する旨の業務連絡を受け取った。なんでも、各地域ごとのマーケティングのノウハウ、営業対応の好事例、クレームやトラブル事例などを一括で吸い上げてノウハウ化したいとのことだ。

 「データベースを作ったから各自登録するように」

 業務連絡にはそう記されている。

 「んなこといわれたって、みんな忙しいのにデータベースなんて誰も書き込みやしないし、見やしないよ…」

 ため息まじりにつぶやく小松。案の定、運用開始してから1カ月が経ったが、登録されたレコード数も閲覧数も、それはそれは、お寒いものだった…。

 「ほら言わんこっちゃない。また無駄なシステム作りやがって…」

 小松は大きくため息をついた。

「ナレッジ管理」とは何か?

 ナレッジ管理とは、個人が得た知識やノウハウを組織で共有して活用できるようにするための取り組みである。ITIL® V3関連の書籍や文献を紐解くと、サービス・ナレッジ管理システム(SKMS)を作ることが推奨されている。

 しかし、ただシステムを作っただけではナレッジは蓄積されないし、流通もしない。立派なデータベースやグループウエアを作ったものの、「ほとんど使われない」「ナレッジが登録されない」例も多い。

 組織内のナレッジ流通を活性化するためには、社員やチームメンバー同士の対話など、コミュニケーションやナレッジモデルを誘発する仕掛けこそ重要である。すなわち「デジタル」「アナログ」の両輪がナレッジ管理の肝なのだ。

 今回は、ITIL® V3の定義にとらわれず、広義の意味での「ナレッジ管理」の手段と事例を解説する。