2008年9月25日、中国3番目の有人宇宙船「神舟7号」が打ち上げられ、軌道上で翟志剛宇宙飛行士が15分間の船外活動を行った。中国初の船外活動だった。

 この頃から中国は宇宙開発に関する映像を、積極的に公開するようになった。この船外活動でも、翟飛行士が神舟7号のハッチを開けて、外に出てくる映像をリアルタイムでネットに流したのだが、日本ではその映像に対して「おかしい、宇宙の映像であるはずがない。捏造だ」という声がネットを中心に巻き起こった。捏造とする根拠はどれもこれも、「そもそも宇宙で物体がどのような運動をする知らない」というような誤解に基づいた稚拙なものだったが、それでも「中国の宇宙遊泳映像は深いプールの中で撮った捏造だ」という意見はかなりの広がりを見せた。

 この時、私はあまりの情けなさに、自分のブログに「このっ、バカ共が!」という記事を書いたところ、コメント欄がなかなかすごいことになった。コメント欄の応酬は、どうやら建設的な議論に収束し、最終的に神舟7号における、船外活動の画像に関するFAQ(よくある質問と答え)Ver.1.1(2008年10月16日木曜日版)というFAQにまとまった。

 7年を経て当時の記事を読み、「当時、中国の宇宙遊泳映像は捏造だ」と決めつけた人たちは、今はどう思っているのかを考える。この7年間で、中国の宇宙開発はかなりの進展を見せた。実績は偏見を圧倒する。もう、「中国は宇宙関係で捏造映像を出してくる」などと考える人はほとんどいないのではなかろうか。

急がず、慎重に、しかしたゆまず、着実に

 中国の有人宇宙活動の特徴は、非常に慎重に、急ぐことなく一歩ずつ着実に成果を出していることだ。このことは打ち上げ実績を見るだけではっきりと分かる。

表1●中国の有人打ち上げの実績
宇宙船打ち上げ日備考
神舟1号1999年11月20日有人宇宙船「神舟」の初打ち上げ。技術試験が目的。無人。
神舟2号2001年1月10日無人。サル、犬などの動物を搭載し生命維持装置を試験。
神舟3号2002年3月25日無人。ダミー人形を搭載し、船内環境を計測。
神舟4号2002年12月30日無人。有人打ち上げに向けた最終リハーサル。
神舟5号2003年10月15日初の有人打ち上げ。楊利偉飛行士が搭乗し、21時間地球を周回して無事に帰還。
神舟6号2005年10月12日費俊竜、聶海勝の2飛行士が搭乗し、5日間飛行。
神舟7号2008年9月25日翟志剛、劉伯明、景海鵬の3飛行士が搭乗し、中国初の船外活動を実施。
天宮1号2011年9月29日本格的宇宙ステーション建設に向けた技術試験機。無人で打ち上げられ、神舟8号〜10号とドッキングした。
神舟8号2011年11月1日無人で打ち上げられ、天宮1号とのランデブー・ドッキング試験を実施。
神舟9号2012年6月16日景海鵬、劉旺、劉洋の3飛行士が搭乗。劉洋は中国初の女性飛行士。景海鵬は中国初の2度目の飛行。天宮1号とのドッキング試験と天宮1号での有人滞在を実施し6月29日に2週間の滞在を終えて帰還。
神舟10号2013年6月11日聶海勝(2回目の飛行)、張暁光、王亜平(女性)の3名が搭乗。天宮1号とのドッキング試験と有人滞在を実施、6月26日に帰還。
神舟号(出所:中国語版Wikipediaより)
神舟号(出所:中国語版Wikipediaより)
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