2015年10月5日、米国のアトランタで開催された環太平洋パートナーシップ協定(TPP)閣僚会合において、TPP協定が大筋合意となった。あくまで大筋合意であり、今後最終合意と署名、参加各国における関連国内法の整備と議会承認、参加間の足並みがそろった段階での協定発効と踏むべきステップは多い。それでも近いうちに環太平洋地域において、12カ国からなる自由貿易圏が動き出すことは、ほぼ確実となった。

 社会における情報の流通という観点から見ると、著作権保護期間が、現行の著作権者の死後50年から70年へと延長になることが大変大きな問題だ。

 著作権保護期間にあるにもかかわらず、著作権者が不明になった著作物のことを「孤児著作物(Orphan Works)」という。孤児著作物は、利用しようにも現行の制度では合法的な利用ができない。現行制度のままででは、あまりに長い著作権保護期間により、孤児著作物が増える危険がある。

強力コンテンツ保持者が著作権保護期間延長を推し進めた

 著作権に関する国際条約であるベルヌ条約は、保護期間を著作者生存期間中および死後50年以上と定めており、現在日本は死後50年を採用している。一方、TPP参加12カ国では米国、オーストラリア、ペルー、チリ、シンガポールは、死後70年を採用している。著作権保護期間の延長は、映画をはじめとした強力なコンテンツ産業を要する米国が熱心で、世界的に見ても欧州は軒並み70年だ。

 死後70年という期間が普及したきっかけは、1965年に当時の西ドイツが70年を採用したことだった。19世紀ロマン派のクラシック音楽の名作を数多く生んだドイツでは20世紀半ばから、著作権保護期間延長の運動が起きたのである(例えば、ヨハネス・ブラームスの場合、死後70年を採用すると1967年まで著作権が保護されることになる)。ドイツの70年という期間はその後EUの指針となり、欧州の大部分の国が70年を採用することとなった。