どんな技術にも利点と欠点がある。また、どんなに優れた技術であっても、それだけで社会に受け入れられ、定着するとは限らない。歴史を振り返れば、優れていたにもかかわらず、生き残ることができずに消えてしまった技術がいくらでも見つかる。
準天頂衛星システムにも利点と欠点があり、欠点は利点と比べても決して無視できるほど小さくはない。さらには準天頂衛星システムの利点を上回る特徴を備えた「マルチGNSS」という技術も開発され、実際に利用されるようになりつつある。
このような状況下で、すでに国の計画で実施することが決まってしまい、実現に向けて動いている準天頂衛星システムを本当に役に立つものにするためには、補強信号による高精度測位が不可欠だ。
ただし、「高精度」というだけでは普及はおぼつかないだろう。普及のための施策が必要である。
より大きく重い衛星をより高い軌道に
準天頂衛星システムの利点は、「常に日本の真上から電波を送信できる」ということである。では、欠点はどこにあるのか。
まず問題になるのは、遠地点高度3万9000キロメートル付近で日本上空を通過するという軌道の性質である。米国の「GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)」やロシアの「グロナス」、欧州の「ガリレオ」、中国の「北斗」といった諸外国の測位衛星システムは、ほぼ高度2万キロメートルあたりの軌道を使っている。
つまり、日本の準天頂衛星の軌道高度は、他の測位衛星の2倍の高度にある。このため、同じ強度の電波を同じ地域に送るには、大ざっぱに言って4倍の電波出力が必要になり、それだけ衛星が大きく重くなる。
より大きくて重い衛星を、より高い準天頂軌道に送り込まねばならない。そのためには、打ち上げ能力の大きなロケットが必要になる。現行のGPS衛星「ナブスター・ブロックIIF」は、打ち上げ時の衛星重量が1.6トン。それに対して日本の準天頂衛星「みちびき」は、4.1トンある。