スペースXとブルー・オリジンが進めるロケットの垂直着陸と再利用。現在実用的な大型衛星を打ち上げるには、衛星の重量にもよるものの、数十億円がかかる。これが再利用によって、半分あるいは3分の1に下がれば、文字通りの「価格破壊」だ。
もし、10分の1、100分の1と、桁違いに下げられるなら、文字通り人類社会の宇宙利用のありようが激変するだろう。
その一方で、宇宙業界には垂直着陸による再利用を突き進める両社の行き方に対して、懐疑的な見方もある。確かに、ロケットを使い捨てにせずに回収して再利用すれば、打ち上げ費用は安くなる。しかし、再利用のための回収費用、再整備費用がかさむなら、かえって費用が高くなってしまうこともあり得る。やみくもに再利用すればよいというものではない。
それでは、一体どのような再利用をすれば、打ち上げコストを安くできるのだろうか。
原理原則にさかのぼって考えるイーロン・マスク
まずは回収・再利用に関するスペースXの考え方だ。イーロン・マスクはこの件について、「Why Make Rockets Reusable?」という短い映像を公開している。2012年に回収再利用型ロケットの開発に乗り出すと発表した際のものである。
「ファルコン9は世界で最も低コストのロケットだが、1回の打ち上げには5000万~6000万ドルかかる。しかし、そのうち推進剤のコストはわずか20万ドルにすぎない。もしもロケットを1000回再利用できれば、ロケットの価格は打ち上げ1回当たり5万ドルになる。もちろん回収や再整備にコストはかかるが、それでも打ち上げコストを100分の1にできる」
使い捨てにしている機体を1000回使えば、1回あたりの価格は1000分の1になり、再整備費用を考えても打ち上げコストを100分の1にできるというわけだ。
この発言は、物事を原理原則に基づいて考えるイーロン・マスクの面目躍如というべきだろう。ロケット本体は高く、推進剤は安い。だからロケットを回収して再度推進剤を詰めて打ち上げれば、打ち上げコストは安くなる。そのために必要な技術は、自らの努力で開発すればよい。
これと同じ考え方で、1970年代に米国はスペースシャトルを開発した。しかしシャトルは、再整備のコストがあまりに高くなってしまい、宇宙輸送の低コスト化には失敗した。
イーロン・マスクはためらわない。おそらくは、「物事の本質は、ロケット本体が高く推進剤が安いところにあるのだから、シャトルよりもうまくやれば成功する」と考えているのだろう。
一方で、「スペースXのやり方は間違っている。もっとうまい回収・再利用の手法がある」とする会社もある。ユナイテッド・ローンチ・アライアンス(ULA)という会社だ。