イーロン・マスクが設立したスペースXが打ち上げる「ファルコン9R」。ジェフ・ベゾスが設立したブルー・オリジンが打ち上げる「ニュー・シェパード」。垂直着陸型再利用ロケット技術の開発でしのぎを削る2社の最終目的は一致している。宇宙輸送システムの低コスト化と、それによる宇宙利用や宇宙探査の活発化だ。
しかし、そこに至るまでのビジネスプランは異なる。スペースXが、一気に衛星打ち上げコストを下げようとしているのに対して、ブルー・オリジンは弾道有人飛行による宇宙観光旅行という市場をまず立ち上げ、その一方で技術開発を進めて、次の段階で低コストの宇宙輸送システムを確立しようとしている。このビジネスプランの相違は、ファルコン9Rと、ニュー・シェパードの設計に現れている。
走りながら完成度を高めるスペースX
まず、スペースXのファルコン9ロケットを見ていこう。このロケットは2010年6月の初打ち上げ以降、2回の大改造を受けている。現在のファルコン9は「ファルコン9 v1.1フル・スラスト」というバージョンだ。1号機から5号機までが、「ファルコン9 v1.0」という最初の設計の機体。6号機から19号機までと、2016年1月に打ち上げた21号機の15機が「ファルコン9 v1.1」。2015年12月に史上初の第1段の陸上着陸に成功した21号機と、今後打ち上げるのが「ファルコン9 v1.1フル・スラスト」だ。
これはいかにも、IT業界出身のイーロン・マスクらしい技術開発の進め方だ。
これまでの宇宙開発では、信頼性を向上させるために、一度確定した設計は極力変更しないという方針で行われてきた。少し良くなるからと変更を行うと、別の思わぬ箇所に悪影響がでることがあるからだ。「ベターはグッドの敵」という言葉すらあった。
しかしスペースXは運用中のロケットであっても、どんどん新たな技術を取り入れて設計を変えていく。最初から完璧なものを作り上げるのではなく、「走りながら直し、完成度を高めていく」、IT業界でよく見られる開発手法だ。
おそらく、この手法をロケットの信頼性を落とすことなく実践できている背景には、イーロン・マスクの独裁による意志決定の簡素化と、ムーアの法則により高速化したコンピュータ(CAD/CAM、3Dプリンター、制御、各種シミュレーション)の設計、開発、製造に対する全面的適用があると思われる。