クラウドの世界では新しい技術が次から次へと登場している。それが今までの“常識”を“非常識”にすることがある。

 常識の一つが「複数ユーザーでITインフラを共有するパブリッククラウドは、1社で専有するプライベートクラウドよりも総所有コストで有利」という考え方だ。もしあなたがこのような見方をしていたら、考えを改めたほうがいい。この常識を覆す運用実績が出始めているからだ。

 例えば、ヤフーは検索やネット通販、オークションなど自社Webサイト群を支えるIT基盤をクラウド構築・管理ソフト「OpenStack」を採用して再構築した。2014年から新基盤に移行を進め、運用が軌道に乗った2015年春時点で、パブリッククラウドサービスを利用した場合とのコストを比較した。すると大手のIaaSを利用した場合の年間支払額に対し、新しい基盤の年間経費はわずか3%まで抑制できていたという。「数分の1に抑えるという当初の見通しを上回る、極めて効率的なIT基盤を整備できた」と構築を担当したサイトオペレーション本部インフラ技術1部の伊藤拓矢部長は満足げだ。

共用型VMは処理性能が見積もりにくい

 ヤフーが新しいIT基盤で運用する物理サーバーは現時点で約5000台に達するなど、ハードウエア調達能力はクラウド事業者にも匹敵する。多様なWebサイトを常時運用し、もともとクラウドの自営が効果を上げやすい。

 それでもコスト差が「クラウドサービスの30分の1以下」とは大き過ぎる。その理由を探っていくと、今のパブリッククラウドが抱える課題が見えてくる(図1)。

図1●30分の1以下の投資でプライベートクラウドを構築したヤフー
図1●30分の1以下の投資でプライベートクラウドを構築したヤフー
パブリッククラウドサービスを利用した場合の年間利用料の試算と、プライベートクラウドに投じたハードウエアの年間償却費や業務委託費を、サーバーの仕様や通信量をそろえて比べた。ライセンス料が発生しないOpenStackを使った効果も大きい。
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