日本の電子産業が苦境から抜け出せない。例えば、半導体。半導体の世界売上高は2014年に2年連続して過去最高記録を塗り替えたものの、日本では半導体は構造不況業種に成り下がっている。1980年代後半の日米半導体摩擦がうそのようだ。

 この寄稿では、30年間米国企業で働いた日本人技術者が実際に現場で見た状況を基に、米国電子産業が復活し日本電子産業が凋落していった理由を分析する。日本から見ると派手な動きが目に着く米国だが、実際には米国企業は長い年月をかけて地道に力を付けてきた。それが結実した、と著者は見る。技術者個人のキャリア形成も意外に地道だという。働きながら勉強を欠かさずに力を付けていく。華麗な転職の背景には、たゆまぬ努力があるとする。

 第4回は、技術者個人に焦点を合わせる。著者が見てきた米国技術者のキャリア形成や人生設計を主に紹介する。(日経テクノロジーオンラインによる要点)

 今回は、米国における技術者のキャリアー形成とライフサイクルについて紹介します。これまで同様に、私の身の回りで見てきた実際の姿を書きます。本題に入る前に、米国社会の格差について言及しなければなりません。よく言われるように、米国社会は、格差社会であります。私が書こうとしている、技術者が仕事をして生活している環境は、“恵まれた階層”のものです。もっと具体的に述べると、ハイテクと呼ばれる先端技術を開発する数百人規模の技術者集団で、半分近くの技術者が工学博士という光景です。米国社会の平均値的な状況とは異なる面があることを最初にお断りして、筆を進めたいと思います。

 昨今は、日本の技術者にとって受難の時代だと、しみじみ思います。日本の製造業、特に電気電子産業に起きている急速な変化は、前回までに書いてきた世界的規模で広まった技術革新により引き起こされています。技術革新を引き起こす礎である技術者が引き起こされた社会構造の変化により、振り回されている状況と言えます。