楽天証券は、顧客が株取引アプリを起動していなくても、指定株価に到達したことなどをリアルタイムに知らせるプッシュ通知サービスの提供を今年1月に開始した。同社はこうしたカスタマーコミュニケ―ション系機能を中心に、クラウドの活用を推進している。開発や運用効率を高めつつ、魅力ある新サービスを矢継ぎ早に顧客に提供することで、激しい競合が続くオンライン証券市場で存在感を高める狙いがある。

写真●楽天証券 常務執行役員 情報システム本部長 平山忍氏
写真●楽天証券 常務執行役員 情報システム本部長 平山忍氏
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 クラウド上のサービスは基本的に、オンプレミスのバックエンドシステムと連携動作する。そのためクラウド化を推し進めるには、各種サービスを支えるオンプレミスのデータ基盤が十分な性能や安定性を持つことが前提になる。そこで同社は、株などの取引データを管理するDBサーバーを計画より2年前倒ししてアップグレードしたほか、FX(外国為替証拠金取引)のシステム向けにインメモリーDBを搭載する高速な分散型データ基盤を新規構築した。また、分析系システムへの適用をにらみ、列指向DBやKVS(キーバリューストア)など新たなDBアーキテクチャーの調査も始めている。

ハード刷新でDB性能が4~10倍に

 証券取引システムのDBサーバーとして利用している「Oracle Exadata」(Oracle RACをクラスター構成の専用ハードウエアに組み込んだアプライアンス)には、モバイルアプリによる取引の活発化などによって処理能力不足の懸念が生じていた。「取引所が開場する午前9時にはトランザクション処理が多数実行されて、レスポンスが100秒を超えるケースがあった。また、朝までにバッチ処理が終わらなくなる恐れもあった」と、直面していた問題について常務執行役員 情報システム本部長の平山 忍氏(写真)は説明する。

 そこで、クラウドを活用した新サービスの本格投入に先駆け、DBサーバーのハードウエアを計画よりも2年前倒しし、2014年に刷新した(2011年に導入したExadata V2を同 X3にリプレース)。この結果、PCI接続フラッシュメモリーの容量が4倍以上に増え、レスポンスが8~10倍、バッチ処理速度が4倍程度高くなったという。

 その際に、DBのバージョンアップやアプリケーションの変更(チューニング)はしていない。「DBをバージョンアップするとなると、1年ほどの期間を費やして大規模な検証を実施する必要が生じる。リスクを考えると、ハードウエアのリプレースとDBのバージョンアップの同時実施は避けるべきと考えた」(平山氏)からである。