「2017年12月下旬から『量子超越性』の実証を開始する」「量子コンピュータのクラウドサービスを提供する計画だ」――。米Googleと米カリフォルニア大学サンタバーバラ校で量子コンピュータの開発を率いるJohn Martinis氏はそう力説する。量子コンピュータに注ぐGoogleの並々ならぬ野望を解き明かそう。

 GoogleのMartinis氏は米シリコンバレーで2017年12月5~6日に開催された「Q2B Conference」の講演で、同社がクラウドサービス「Google Cloud」の一部として、量子コンピュータを提供するための作業中であることを明らかにした(写真1)。同社が開発中の量子ゲート方式の量子コンピュータを、インターネット経由で利用できるようにする。

写真1●米Googleと米カリフォルニア大学サンタバーバラ校で量子コンピュータの開発を率いるJohn Martinis氏
写真1●米Googleと米カリフォルニア大学サンタバーバラ校で量子コンピュータの開発を率いるJohn Martinis氏
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 量子ゲート方式のクラウドサービスは、米IBMが「IBM Q」を使って開始している。しかしGoogleの量子コンピュータは、従来のものとは社会的なインパクトが大きく異なる可能性がある。Googleは間もなく「量子超越性(Quantum Supremacy)」を実証するとしているからだ。

量子コンピュータのパワーを実証できるか?

 量子超越性とは、量子コンピュータが従来型のコンピュータでは実現不可能な計算能力を備えていることを示すのを指す。量子コンピュータは「0」と「1」の両方が同時に存在する「量子ビット」を使って計算する。かつては数千万個から数億個の量子ビットを搭載し、量子ビットの「エラー訂正」ができる「ユニバーサル量子コンピュータ」でなければ、従来型のコンピュータを超える計算能力は発揮できないとされていた。

 しかし最近、量子ビットの数が少なくエラー訂正もできない量子コンピュータ(*1)であっても、ある程度の数の量子ビットがあれば、特定のアルゴリズムにおいて量子超越性が示せることが分かってきた。Googleが設定する「量子超越性に必要となる量子ビットの数」は49個。これより量子ビットの数が多くなると、量子コンピュータの振る舞いを従来型のコンピュータでシミュレーションするのが不可能になるのだという。

*1:量子ビットの数が少なくエラー訂正もできない量子コンピュータのことは「NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum Computer、ノイズがありスケールしない量子コンピュータ)」(カリフォルニア工科大学のJohn Preskill教授)や「Approximately Universal Quantum Computer(近似的なユニバーサル量子コンピュータ)」(IBM)などと呼ばれている。

 Googleは「2017年のクリスマス休暇の前後」(Martinis氏)にも、49個の量子ビットを搭載する量子コンピュータの稼働を開始し、量子超越性を検証する予定だ。もし成功すれば、量子コンピュータの比類無きパワーが世界で初めて実証されることになる。コンピュータ史にとって、記念すべきマイルストーンになるだろう。

超越性は「実証できる?」「役立つ?」

 ただし、Googleが示す量子超越性には考慮すべき点が二つある。一つは最近になってIBMが「49量子ビットでは量子超越性は示せない」と主張していることだ。IBM Researchは2017年10月に「Breaking Through the 49 Qubit Simulation Barrier」というブログ記事と論文を公開。最大56量子ビットの量子コンピュータの動作が、従来型のスーパーコンピュータでシミュレーションできるとした。