米Amazon Web Services(AWS)がIaaS(Infrastructure as a Service)「Amazon EC2」の基盤を全面刷新していた。新基盤「Nitro」は自社開発した専用ASICを採用することで、ネットワークやストレージの性能を大幅に強化した。クラウドの性能強化を独自ハードが担う時代になった。

 EC2の新基盤であるNitroの存在は、米ラスベガスで開催する年次カンファレンス「AWS re:Invent」でAWSのグローバルインフラストラクチャー担当バイスプレジデントであるPeter Desantis氏が11月28日(米国時間)に明らかにした(写真1)。Desantis氏はAmazon EC2の開発に初期から関与しているコアメンバーの一人だ。

写真1●AWS専用ASICを掲げるPeter Desantis氏
写真1●AWS専用ASICを掲げるPeter Desantis氏
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 同氏によればAWSは2013年にAmazon EC2の基盤刷新を始め、3年掛かりでNitroを完成させたという。パフォーマンス重視のインスタンス「Cシリーズ」の新しいタイプを追加する度に、基盤も刷新した。

 まずは2013年に発表した「C3」インスタンスから、ネットワークのパケット処理をCPUからオフロードするASIC(特定用途半導体)をEC2の物理サーバーに搭載した。ネットワーク処理をCPUからASICにオフロードすることによって、それまでに比べネットワーク帯域は20%拡大し、ネットワーク遅延は50%削減できたという。

2014年からAWS用にASICをカスタマイズ

 ネットワーク処理に使用したASICは外部の半導体メーカーが販売する、いわゆる商用ASICだった。続く2014年に発表した「C4」からは、イスラエルの半導体メーカーAnnapurnaLabsが開発するASICをAWS用にカスタマイズしたものを採用。ネットワーク処理に加えてストレージ処理も物理サーバーのCPUからASICにオフロードした。

 ASICにオフロードしたのは、ネットワーク経由で接続するブロックストレージである「Amazon EBS」にデータを書き込む際の処理やデータの暗号化処理などだ。これらをオフロードすることによって、物理サーバーのCPUパワーを従来よりも最大12.5%多く、ゲストの仮想マシンに振り分けられるようになった。

 AWSは2015年にAnnapurnaLabsを買収し、その後は同社にAWS専用のASICを開発させる道を選んだ。「ネットワーク処理やストレージ処理といった半導体メーカーが想定する用途だけでなく、AWSに特化したソフトウエア処理、具体的にはEC2のハイパーバイザーや管理ソフトウエアが担っているクラスター管理やセキュリティ管理、パフォーマンス監視などのワークロードをASICにオフロードしようと考えたからだ」。AWSのContainer Services&High Performance Computing担当ディレクターであるDeepak Singh氏はそう振り返る(写真2)。

写真2●AWSのDeepak Singh氏
写真2●AWSのDeepak Singh氏
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