米国のITベンダーで、顧客サポートこそが最強の営業活動なのだという認識が広がっている。クラウドの普及によってITベンダーのビジネスが従来の「売り切り型」から「サブスクリプション(購読)型」へと変化したことが背景にある。それに伴いサポート部門の名称も変わり始めた。

 「当社ではカスタマーサポート部門を『カスタマーラブ部門(Department of Customer Love)』に名称変更した。カスタマーラブ部門こそが、当社のビジネスを成長させるうえで最も重要な部門だ」。そう語るのは新興のBI(Business Intelligence)ツールベンダー、米LookerのFrank Bien CEO(最高経営責任者)だ(写真1)。

写真1●米LookerのFrank Bien CEO(最高経営責任者)
写真1●米LookerのFrank Bien CEO(最高経営責任者)
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 同社のBIツール「Looker」は、配車サービスの米Lyftや決済サービスの米Squareなど、シリコンバレーの注目スタートアップがこぞって利用していることで知られる。エンドユーザー(企業の利用部門)がWebベースのGUI(グラフィカル・ユーザー・インタフェース)から利用できる「セルフサービス型」のBIツールで、米Googleの「BigQuery」や米Amazon Web Services(AWS)の「Amazon Redshift」のような高速で拡張性が高いクラウドのDWH(データウエアハウス)サービスをバックエンドに利用することを前提にしている。

データ活用支援を基本料金に含めて提供

 Lookerのカスタマーラブ部門が提供するのは、「ユーザー企業におけるデータ活用支援」(LookerのBien氏)だ。BIツールの導入やシステム構築、データ連携などに関する技術支援(テクニカルサポート)ではない。導入支援などは「プロフェッショナルサービス」の名称で、サブスクリプション料金とは別料金で提供している。それに対してカスタマーラブ部門が提供するデータ活用支援のサービスは、サブスクリプション料金に含まれる。

 「カスタマーラブ部門にはデータ分析のノウハウに長けた『データピープル』(データサイエンティスト)が所属し、データピープルがユーザー企業のビジネスモデルなども理解したうえで、顧客が抱えるデータ分析に関する問題を解決していく」。Bien氏はそう語る。顧客とのコミュニケーション手段には電話ではなくチャットを活用する。顧客の悩みがサービスの仕様などに起因する場合、顧客の生の声を直接、開発部門に届けるためだ。「当社には400人の従業員が所属しているが、そのうちの150人がデータピープルだ」(Bien氏)という。

 Lookerは、いわば「データ分析コンサルティング」に相当するサービスを、通常のサブスクリプション料金の中で提供しているようなものだ。「当然、コストはかかる。しかし当社のビジネスを成長させていくには、これ以外に道はないと判断した」(Bien氏)。サポート費用を「販売促進費」や「マーケティング費」の一種と割り切って、売上高を大きくするために投じているのだという。

従来の販売主導はもはや通用しない

 「サブスクリプション型のSaaS(Software as a Service)の世界では、顧客はSaaSを使って自社のビジネスを成功させられなかったら、すぐにサブスクリプションを打ち切ってしまう。従来のIT業界にあった『セールスドリブン(販売主導)』の手法、すなわち販売契約を結んだ後は営業担当者が二度と来ないようなやり方は一切通用しない。顧客との継続的な関係性が従来よりもはるかに重要になった」。Bien氏はカスタマーラブ部門を設けた目的をそう語る。