番狂わせの決着――。米大統領選はドナルド・トランプ氏の勝利が確実となった。経済成長から取り残された米南部、中西部の人々の“怒り”が「トランプ大統領」を生んだのは間違いない。しかし今回は、従来の選挙に無いある要素が勝敗に大きな影響を与えた。「サイバーセキュリティ」だ。

 「恐ろしい夜だ。ただトランプが勝つからだけではない。私が思っていた以上に地方の白人が抱える怒りが深いことが、明らかになった」――。経済学者のポール・クルーグマン氏は2016年11月8日(米国時間)の深夜、「Twitter」でこのように発言した。「メキシコ国境に巨大な壁を築く」など荒唐無稽な公約を掲げたトランプ氏が勝利を収めようとしている背景に、「Brexit」を引き起こしたのと同じ“取り残された人々の怒り”があったのは間違いない。

写真●米クパチーノ市役所前で投票する女性
写真●米クパチーノ市役所前で投票する女性
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 しかし今回の大統領選で両陣営が獲得した票数は僅差。ヒラリー・クリントン氏が票を取りこぼさなければ、勝利を収めた可能性は十分ある。それだけに今回の大統領選は、クリントン氏を襲ったサイバーセキュリティに関連する疑惑やトラブルが、勝敗を大きく左右したとも言えるだろう。

 クリントン氏は今回、サイバーセキュリティにまつわる二つの問題に大いに悩まされた。一つはクリントン氏が国務長官時代に私用メールサーバーを使用していた問題。米国政府が定めたサイバーセキュリティに関する規則を国務長官でありながら破ったことは、クリントン氏の評判を大きく傷つけ、トランプ氏が「クリントン氏は有罪」と主張する大きな根拠になった。

米政府はロシア政府が選挙に介入と批判

 もう一つは、告発サイト「WikiLeaks」などがクリントン氏やクリントン陣営幹部、米民主党幹部の電子メールを暴露し続けた問題だ。WikiLeaksが暴露したメールの中には、民主党幹部が大統領予備選挙期間中にバーニー・サンダース氏の選挙活動を妨害しようとしていたとする内容も含まれていた。こうした電子メールの暴露が、サンダース支持者の票を取りこぼす結果につながった可能性は否定できない。

 重要なのは、WikiLeaksなどが暴露した電子メールの出所だ。米国土安全保障省と米国家情報長官室は2016年10月7日(米国時間)に「WikiLeaksなどが暴露した電子メールは、ロシア政府機関がハッキングして入手したものだ」「ロシア政府はヨーロッパやユーラシアでやっているように、米国の選挙に介入しようとしている」との声明を発表し、ロシア政府を強く批判した。

 米ニュース局「CNN」に出演したオバマ政権の元幹部は「海外勢力が選挙に影響を与えた」と怒りを隠さない。2016年の米大統領選は、サイバーセキュリティが大きな影響を与えた選挙として歴史に残りそうだ。