産業機器の動きをコンピュータ上で再現し、実際に動かしている産業機器のセンサーデータを使って機器の故障などを予測する「デジタルツイン」。米General Electric(GE)や独Siemensといった大手産業機器メーカーが掲げてきた、こうした産業IoT(Internet of Things)のコンセプトを、米Oracleが自社製品に取り入れ始めた。

 Oracleは2017年8月31日(米国時間)に、IoTのSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)である「Oracle IoT Cloud Applications」に、(1)デジタルツイン、(2)様々な産業機器で発生するデータをつなげて全体を見渡せるようにする「デジタルスレッド」、(3)Oracleのデータサイエンティストが開発した機械学習モデル、の三つを搭載すると発表した。

 デジタルツインは、産業機器に取り付けたセンサーから集めたデータを使った予測モデルである。産業機器でリアルタイムに発生したデータをモデルに当てはめることで、産業機器にこれから故障が発生するかどうかを予測できるようになる。コストがかさむ計画外停止の防止が見込める。

写真●デジタルツインを説明する米OracleのBhagat Nainani氏
写真●デジタルツインを説明する米OracleのBhagat Nainani氏
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 デジタルスレッドは、製造ラインやサプライチェーン全体の状況を、産業機器ごとに管理されていたデータをつなぎ合わせてリアルタイムで把握する仕組みだ。センサーデータなどを基に産業機器の異常や故障を予測するモデルは、Oracleのデータサイエンティストが機械学習によって開発し、Oracle IoT Cloud Applicationsにあらかじめ搭載する。

GEやSiemensの“異業種参入”に対抗

 デジタルツインやデジタルスレッドは、GEやSiememsといった大手産業機器メーカーが掲げてきたコンセプトである。GEは2015年に「GEデジタル」を設立し、産業IoTのプラットフォームである「Predix」のクラウドサービスを2016年2月から提供している。GEデジタルがPredixのキラーアプリケーションと位置付けているのが、デジタルツインだった。Siemensもデジタルファクトリー部門を設け、デジタルツインを実現する製品ライフサイクル管理ソフトウエアの販売に力を入れている。

 GEやSiemensのソフトウエア事業強化は、産業機器メーカーによるソフトウエア市場への“異業種参入”だと言える。GEは2020年までにソフトウエア企業として世界ランキング10位以内に入ることを目標と掲げている。GEやSiemensの強みは、産業機器の特性や、産業機器を利用する顧客の環境をよく理解していること。両社ともその強みを活かし、産業機器を利用する顧客の現場ですぐに利用できるIoTアプリケーションを開発し、提供してきた。

 Oracleはいわば、産業機器メーカーによるソフト市場への参入を迎え撃つ立場にある。GEやSiemensがIoTアプリケーションを提供しているのに対抗して、Oracle自身もIoTアプリケーションをゼロから開発し、2017年2月から提供を開始した。それがOracle IoT Cloud Applicationsだった。

 SaaSとして提供するOracle IoT Cloud Applicationsは、複数のIoTアプリケーションによって構成する。2月の発表時点では、産業機器の稼働状況を監視して、そのデータを既存のSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)やERP(統合基幹業務システム)と連携する「IoT Asset Monitoring Cloud」や、従業員の作業状況を追跡する「IoT Connected Worker Cloud」、トラックの運行状況などを追跡する「IoT Fleet Monitoring Cloud」、製造機器のセンサーデータを監視する「IoT Production Monitoring Cloud」を用意していた。