「ここに来ていることは、社外の誰にも言っていない。バレたら大変なことになるからね」。そう語るのは、ある日本のシステムインテグレーターの社長。「ここ」とは米フロリダ州オーランドのこと(写真1)。7月13日から16日まで米Microsoftのパートナー会議「Microsoft Worldwide Partner Conference(WPC) 2015」が開かれていた。

写真1●「Microsoft Worldwide Partner Conference 2015」が開催された米オーランド
写真1●「Microsoft Worldwide Partner Conference 2015」が開催された米オーランド
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 この社長のオーランド行きが極秘だったのは、同社がMicrosoftとはライバル関係にあるクラウド事業者の有力パートナーだから。Microsoftは今回のWPC 2015に合わせて、「Amazon Web Services(AWS)」や「Google Cloud Platform」「Salesforce.com」などの有力パートナーを世界中から40社ほどオーランドに招待していた。オーランドまでの旅費や宿泊費などはすべて、Microsoftが負担したという。

 オーランドに招かれたライバル事業者の有力パートナーはWPC 2015のセッションには参加せず、会場近くのホテルに「缶詰」にされて、Microsoftの幹部から直々に同社のパートナーになるよう「リクルーティング」を受けていた。

写真2●Microsoft Worldwide Partner GroupのBrent Combest氏
写真2●Microsoft Worldwide Partner GroupのBrent Combest氏
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 MicrosoftのWorldwide Partner Groupで「Partner Profitability & Compete(パートナーの収益性と競争)」を担当するDirectorであるBrent Combest氏は記者の取材に対して、「私の重要な仕事の一つが、競合のクラウドサービスを扱っているパートナーをMicrosoftに乗り換えるよう『リクルート』すること」と明言した(写真2)。

 Microsoftが今、AWSやGoogle、Salesforceのパートナーの切り崩しに必死になっているのはなぜか。それはクラウドの普及が進むにつれて、クラウドを「売る」相手が変わり始めているからだ。

開発者から経営者/CIOにターゲットが変わり始めた

 クラウドの普及が始まった当初、クラウド事業者が専らターゲットにしていたのはアプリケーションの「開発者」だった。開発者は既存の使い勝手の悪い「オンプレミス(社内)」のITインフラに不満を抱えており、使いたい時にすぐに利用できるAWSのようなクラウドを熱狂的に支持した。

 AWSやGoogleなどのクラウド事業者もそれに応えて、「Evangelist(伝道師)」や「Developer Advocate(擁護者)」といった肩書きの担当者を雇用し、開発者にクラウドの技術を説明することに力を注いだ。技術に詳しい開発者であれば技術の素晴らしさを説明するだけで、クラウドを購入してくれたからだ。

 しかし開発者が決断するだけでクラウドを導入できるような先進的な会社はごく一部。ほとんどの企業において情報システム導入の決定権は、経営者やCIO(最高情報責任者)、情報システム部門などが握る。より多くの企業にクラウドを売ろうとするなら、経営者やCIOをターゲットにクラウドを売り込まなければならない。それが今のMicrosoftの見立てだ。