米国のデジタル広告業界が揺れている。2015年6月、米Microsoftがディスプレイ広告市場から撤退して、同事業を米AOLに譲渡すると発表。そのAOLも2015年5月、米Verizon Communicationsに買収されることを発表している。

 米TwitterでDick Costolo氏が7月1日にCEO(最高経営責任者)を退任した背景にも、モバイル広告を主な収入源とする同社の売り上げの伸び悩みがあるとされる。急速に伸び続けてきたデジタル広告業界も、転換点を迎えているようだ。

Microsoftは赤字続きのデジタル広告事業を縮小

 Microsoftがディスプレイ広告事業をAOLに譲渡すると発表したのは6月29日(米国時間)。ブラジル、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、スペイン、英国、米国の9カ国で、Microsoftの広告セールスとマーケティング関連の従業員がAOLに移籍する。

 米Bloombergの報道によれば、MicrosoftからAOLに移籍する社員は1200人に達するという。Microsoftは同時に、AOLが今後10年間、Microsoftの検索エンジンである「Bing」とBingの検索連動広告をAOLのサイトで使用することになったと発表している。

 Microsoftがデジタル広告に力を入れ始めたのは、2000年代後半のこと。2007年5月にはデジタル広告会社の米aQuantiveを60億ドルで買収するなど、サービスの拡充を図った。広告収入を元にオンラインサービスを提供する米Googleが、Microsoftのソフトウエアビジネスの脅威になり始めていたことが背景にあった。

 しかしMicrosoftのデジタル広告は長年苦戦が続いていた。同社は2013年度をもってデジタル広告を中心とする「オンラインサービス部門」の個別決算開示を終了しているが、同部門は2013年度に13億ドル、2012年度には81億ドル、2011年度に27億ドルの営業赤字を計上していた。Microsoftはディスプレイ広告事業をAOLに譲渡し、デジタル広告に関しては今後、Bingの検索連動広告に専念するとしている。

AOLはVerizonへ身売り

 Microsoftからディスプレイ広告事業を引き継ぐAOLも、Verizonへの身売りを5月12日(米国時間)に発表済みだ。VerizonによるAOLの買収金額は44億ドル。VerizonはAOLの買収によって、「LTE網を使ったビデオ戦略を加速できる」(同社のプレスリリース)と説明する。AOLのメディア事業の主力は「Huffington Post」や「TechCrunch」、「Engadget」といったブログメディアだが、AOLは最近、Webサイト「Aol.com」でビデオコンテンツの配信に力を入れていた。