クラウドを始めて丸10年を迎えた米Amazon Web Services(AWS)。AWSはこれまで何を成し遂げ、次の10年で何を目指すのか。親会社米Amazon.comのCTO(最高技術責任者)としてAWSを指揮するWerner Vogels(ヴァーナー・ボーガス)氏は「IT業界の構造そのものを一変させる」と意気込む。

(聞き手は中田 敦=シリコンバレー支局)

過去10年を振り返って、AWSが成し遂げた最も重要なイノベーションとは何でしょうか。

 最も重要なイノベーションを「一つだけ」挙げるとするならば、テクノロジーではなくビジネスの話になります。「企業がITをサービスとして利用するようになったこと」。それこそが最も重要なイノベーションです。

米Amazon.com 最高技術責任者(CTO) Werner Vogels氏
米Amazon.com 最高技術責任者(CTO) Werner Vogels氏
写真:平尾 敦
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 クラウドの登場によって企業は、ITの利用で投資する必要が無くなりました。しかもその利用コストは毎年のように下がっています。企業はクラウドを利用することで、より迅速(アジャイル)な経営が可能になり、ビジネスの世界展開を「数分以内」に実現できるようになりました。

 テクノロジーではなくビジネス面でのインパクトが大きかったからこそ、AWSがこれだけ急速に成長できたと考えています。

CTOがテクノロジーではなくビジネス面での成果に誇りを感じているのは驚きです。

 私はテクノロジーは「どうすれば顧客のビジネス上の課題を解決できるのか」を念頭に置いて開発すべきものだと考えています。

 AWSが始まる前からAmazonのCTOを務めていますが、当初はAmazon社内のことだけを考え、Amazonの成長のために必要なテクノロジーを考えてきました。しかしAWSという「テクノロジープロバイダー」としてのビジネスを始めるようになってから、CTOとしての私の仕事は大きく変わりました。

ITの煩わしさを解消する

 現在のCTOとしての務めは、AWSの顧客の声をよく聞き、顧客の「痛み」が何かを理解し、痛みを解消するために必要なテクノロジーが何かを考えることです。

 顧客は今、ビジネスの「デジタルトランスフォーメーション」を強いられており、多くの老舗企業が若いスタートアップ企業との競争に直面しています。このような顧客を助けるために、ITにまつわる顧客の煩わしさを徹底的に解消するのが私の責務です。

10年前と比較して、企業の情報システムはどう変化したと考えていますか。

 特に最近2年間で顕著ですが、数多くの大企業がITのアウトソーシングをやめ、アプリケーション内製に回帰しました。

 欧米企業のシステム部門は今、社内のビジネス部門から「社外にも無数に存在する業務アプリケーションのサービスプロバイダーの一つ」と見なされ始めています。システム部門は社内のビジネス部門に対して、競合より優れたソリューションを提供する必要があります。アウトソーシングをやめてITのコントロールを社内に取り戻し、優れたソリューションを高速で開発する体制を整えなければなりません。