「ホームミュージックを再発明する」――。2017年6月5日(米国時間)に開催された「WWDC 17」で米Appleは、事前の予想通り「Amazon Echo」対抗となるスピーカー端末「HomePod」を発表した。AI(人工知能)アシスタントを強調する競合に対して、AppleがHomePodで強調したのは音の良さだった。

写真●米Appleのスピーカー端末「HomePod」
写真●米Appleのスピーカー端末「HomePod」
出典:米Apple
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 Appleが今回発表したHomePodは、2017年12月に米国、英国、オーストラリアの3カ国で発売するスピーカー端末だ。米国での価格は349ドル。同社のAIアシスタント「Siri」が利用できるという点でHomePodは、米Amazon.comが2014年末に発売した「Amazon Echo」や米Googleが2016年11月に発売した「Google Home」、米MicrosoftのAIアシスタントを搭載して米HPなどが商品化する予定の「Cortana搭載スピーカー」などに追従する製品となる。

高い処理性能も音質向上に活用

 しかしWWDC 17の基調講演に登壇したAppleのPhilip Schillerシニア・バイス・プレジデントは、HomePodではAIアシスタントが利用できる点よりも、重低音を強調するウーファーを搭載することや、音の出る方向を調整する「ビームフォーミング」が可能なツイーター(高音用スピーカー)を7個搭載することなど、スピーカーとしての音質の良さをアピールした。「iPhone 6/6 Plus」と同じ「A8」プロセッサを搭載するHomePodは高い処理性能を備えるが、Schiller氏が語るプロセッサの用途もソフトウエアによる音質向上が中心だった。

 HomePodでは「iPhone」や「iPad」のSiriと同様に、様々な用途にSiriを利用できる。ユーザーが「Hey Siri」と呼びかけて問いかけると、単に音楽を再生するだけでなく、ニュースや天気予報、周辺の渋滞情報などを読み上げる。またAppleの家電コントロール仕様「HomeKit」に対応するデバイスを、音声を使って操作することも可能だ。Appleは今回、iOSの新バージョンである「iOS 11」に搭載するSiriが、英語から中国語やスペイン語などへの翻訳に対応すると発表している。この翻訳機能もHomePodで利用できる。

キッチンではなく居間を狙う

 それでもWWDCの基調講演では、Siri関連の機能よりも音質に関する説明に多くの時間が割かれた。Appleが音質を重視するのは、他社とは狙うマーケットが違うためだ。HomePodの価格は349ドルで、Amazon Echoの179.99ドルやGoogle Homeの129ドル(Google Storeでの現在の価格は109ドル)と比べると高価だ。Amazon EchoやGoogle Homeの利用シーンはリビングルーム、キッチン、寝室と幅広いのに対し、HomePodはリビングルームに据え置く高級オーディオとして、じっくり音楽を楽しむことに注力している。

 WWDC 17で浮き彫りになったのは、Appleのスピーカー端末やAIに関するスタンスが、AmazonやGoogleなどの競合と比べて大きく異なることだ。HomePodに搭載される「Anonymous ID」という機能も違いの一つ。「Apple ID」を使ってログオンしていなくてもHomePodを利用できるようになる仕組みだ。Amazon EchoやGoogle Homeは、AmazonやGoogleのアカウントにログオンした状態でなければ利用できない。むしろGoogle HomeのAIアシスタント「Google Assistant」の場合は、ユーザーの声色の違いまで識別し、ユーザーにカスタマイズした応答をすることをアピールしていたほどだった。