独Volkswagenや米AT&Tといった大企業が「OpenStack」を使って、大規模なプライベートクラウドを構築し始めている。OpenStackの導入支援サービスを手がける米MirantisのBoris Renski共同創業者兼CMO(最高マーケティング責任者)はそう指摘する。

 シリコンバレーに拠点を置くMirantisは、セルフサービス方式のIaaS(Infrastructure as a Service)を構築するためのオープンソースソフトウエア(OSS)であるOpenStackの専業ベンダー。OpenStackのディストリビューション(検証済みパッケージ)の販売や導入支援サービスを手がける。

 Volkswagen、AT&T共にOpenStackの導入にMirantisの製品やサービスを採用。AT&Tは2020年までにサーバー台数で50万台規模のプライベートクラウドを構築する予定だという。MirantisのRenski氏にOpenStackのユーザー動向などを聞いた。

(聞き手は中田 敦=シリコンバレー支局)

米国におけるOpenStackの市場動向は?

 当社は2011年に起業したOpenStackの専業ベンダーだ。売上高は公表していないが、現時点では売上高の60%をOpenStackの導入支援サービスが、40%をOpenStackのディストリビューション販売が占めている(写真)。

写真●米Mirantis 共同創業者兼CMOのBoris Renski氏
写真●米Mirantis 共同創業者兼CMOのBoris Renski氏
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 OpenStackの大規模導入ユーザーというと従来は、米PayPalや米eBay、人事管理ソフトの米Workdayなど、SaaS(Software as a Service)を手がける事業者が多かった。ところが最近は、独Volkswagen(VW)や米AT&Tといった「伝統的大企業」がOpenStackを導入して、大規模なプライベートクラウドを構築する事例が増え始めている。この2社はいずれも当社の顧客だ。

 当社にとって最大規模の顧客と言えるのがAT&Tだ。AT&Tは既に世界中にある74カ所のデータセンターにOpenStackを導入している。プライベートクラウドの名称は「AT&T Integrated Cloud(AIC)」で、携帯電話網の巨大なデータトラフィックをここで処理する。AT&Tは2020年までにAICのサーバー台数を50万台にまで拡張する計画だ。

 50万台のサーバー全てが、単一のOpenStackクラスターによって管理されるわけではない。OpenStackにはそこまでの拡張性は無いからだ。一つのクラスター当たりの台数は数千台にとどめ、複数のOpenStackクラスターを地理的に異なるデータセンターにまたがって連携させる。こういった部分のシステム構築支援を当社が手がけている。

2016年4月にVWがMirantisの製品やサービスを採用すると発表しました。

 VWは当社にとって非常に大きな案件だ。VWが構築するプライベートクラウドは、VW本体だけでなく、独Audiや独Porsche、英Bentley MotorsといったVWグループの会社や、VWの取引先などが利用する予定だ。

 VWのOpenStack導入には、当社のほかに米Intelや米Red Hatも関与している。Intelがデータセンターの全体に目を配り、当社がOpenStackを、Red Hatが「Linux」を担当する。まず当社とRed Hatが協力してVWのシステム部門からシステムの要件をヒアリングし、VWがプライベートクラウド上に構築するシステムの事例を63のパターンに整理し、それぞれに必要なシステム構成を考えた。