これからは「チャット」があらゆるサービスのユーザーインタフェース(UI)になる――。米Facebookなどがメッセンジャーアプリケーション(アプリ)のプラットフォーム化を進める中で、シリコンバレーではこのような見方が急速に台頭している。

 利用者はもう、スマートフォン(スマホ)のアプリをあれこれ操作したり、検索キーワードを考えたりする必要はない。会話ロボット(ボット)に音声やテキストで“話しかけ”さえすれば、ボットの人工知能(AI)がその意図をくみ取って、買い物をしたり、タクシーを呼んだりしてくれるようになる。Facebookや米Microsoft、米Googleなどが、そのような未来像を喧伝し始めている。

 そうは言ってもこうしたシナリオには、二つの疑問がつきまとう。一つはボットのAIがそこまで賢いのか、という問題。もう一つはチャットというUIがそこまで使いやすいのか、という問題だ。残念ながら「Facebookメッセンジャー」などで公開されているボットは、まだ評価版という位置付けであり、AIの賢さを議論する段階ですらない(関連記事:ボットがアプリや電話窓口を置き換える? Facebookの次なる野望)。

WhatsApp世代に向けたECサービス

 一方、チャットというUIが便利かどうかは、今すぐ試せる。Facebookに先立つこと1年前の2015年4月に、米サンフランシスコに拠点を置くOperatorというスタートアップが、チャットのみをUIに採用したeコマース(EC)サービス「Operator」を開始しているからだ。

 Operatorは「買い物コンシェルジュ」と相談しながら買い物ができることを売りにするECサービスだ。「若い世代のスマホ利用時間のほとんどは、『WhatsApp』などのメッセージングアプリが占める。若い世代にとってのUX(ユーザーエクスペリエンス)の基本はメッセージング。これを軸に全てのサービスのUXを考え直すべきだと考えた」。OperatorのCEO(最高経営責任者)であるRobin Chan氏はそう語る(写真1)。WhatsApp世代に向けたECサービスがOperatorなのだという。

写真1●OperatorのCEO(最高経営責任者)であるRobin Chan氏
写真1●OperatorのCEO(最高経営責任者)であるRobin Chan氏
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 同社はChan氏と、米Uber Technologiesの共同創業者でもあるGarrett Camp氏が起業したスタートアップであり、シリコンバレーでの注目度も高い。実際にOperatorが提供する“チャットベースのECサービス”とはどのようなものか。果たして便利なのか。実際に筆者が試してみることにした。

スマホアプリでのみ買い物が可能、電子メールは登録不要

 Operatorでまず驚かされるのは、同社のECサービスが利用できるのは「iPhone」用のスマホアプリだけで、Webブラウザから利用できないことだった。電子メールアドレスを登録したり、アカウントのパスワードを設定したりする必要もない。利用者はOperatorのスマホアプリをインストールして、電話番号と自分の名前を入力するだけ(現在のサービス提供は米国のみ)。その電話番号へSMS(ショートメッセージ)で送られてきた確認番号を入力すれば、登録は完了だ。