米国では近年、「オルタナティブレンダー(従来とは異なる借り手)」と呼ばれるFinTechスタートアップが多数生まれている(関連記事:FinTechの主戦場は「サブプライムローン」)。2016年3月に「外国人留学生向けクレジットカード」の発行を開始した米SelfScoreを例に、何が「従来とは異なる」のか見ていこう。

 米国でオルタナティブレンダーが増加しているのは、2007~2008年に発生した「リーマンショック」以降、既存の金融機関が信用力の低い「サブプライム層」向けの融資から一斉に撤退したためだ。オルタナティブレンダーは、テクノロジーに基づく新しい審査手法を考案することで、既存の金融機関が相手にしない消費者に対して、消費者ローンやクレジットカードの発行といった融資サービスを果敢に提供しようとしている。

 スタンフォード大学に近い米パロアルトに拠点を置くSelfScoreがターゲットとするのは、米国の大学や大学院に進学する外国人留学生だ。彼らに対して「MasterCard」ブランドのクレジットカード「SelfScore MasterCard」を発行している。

米国に閉じた「FICOスコア」に疑問

 「カード社会」と呼ばれるアメリカだが、米国の金融機関が発行するクレジットカードを外国人留学生が入手するのは容易ではない。なぜなら既存の金融機関がクレジットカード発行の可否を審査する際に使用する「FICO(ファイコ)スコア」は、過去のクレジットカードの使用履歴や支払い履歴をもとに消費者の信用度を数値化している。米国に来たばかりの外国人留学生はこうした履歴が一切無いので、FICOスコアを算出できないのだ。

写真1●ダミーのカードを持つ米SelfScoreのKalpesh Kapadia CEO
写真1●ダミーのカードを持つ米SelfScoreのKalpesh Kapadia CEO
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 SelfScoreのKalpesh Kapadia CEO(最高経営責任者)は、「FICOスコアが米国に閉じていることが問題だ」と指摘する(写真1)。「発展途上国出身の外国人留学生は母国での成績も優秀で、大学卒業後に米国企業に就職し、経済的に成功するケースも多い。米GoogleのSundar Pichai CEOも、米MicrosoftのSatya Nadella CEOも、元をたどればこうした留学生だった。『未来のCEO』をスポイルしているのが、今のクレジットカード業界だ」(Kapadia氏)。

 そう語るKapadia氏自身も、Pichai氏やNadella氏と同じく、インドから米国の理工系大学に進学した外国人留学生の一人だった。Kapadia氏は「外国人留学生の将来の可能性」を根拠にクレジットカードを発行できると考えて、2013年にSelfScoreを起業。この3月にサービスを開始した。

 Kapadia氏は「外国人留学生はそもそもリスクの低い顧客だ」と語る。「彼らは留学に際して、米国大使館によるビザの審査と、大学による入学審査という非常に厳しい審査を受けている」(Kapadia氏)。そこで留学生が本当に大学や大学院に在籍しているのか、「National Student Clearing House」というデータベースに照合して確認できれば、利用上限が500~1000ドルのクレジットカードをすぐに発行する。