米ラスベガスで2016年1月6日から9日まで開催された国際見本市「CES2016」の主役は、パソコンや家電ではなく、自動車だった。

 世界の大手自動車メーカーが、高度なセンサー技術や人工知能(AI)技術を基盤とした「自動運転車」に関する取り組みを相次ぎ披露。広告やメディア、小売りといった産業を変えた「デジタル化」の波が、自動車産業にも押し寄せている姿が浮き彫りになった。

 ただ、同じ自動運転でも各社の戦略は異なる。人間のドライバーを必要としない完全自動運転を強く志向するメーカーがある一方で、自動運転技術は人間のドライバーをアシスト(補助)するものにとどまると主張するメーカーもある。半導体メーカーは、水平分業が浸透したIT産業の力学を自動運転車に持ち込もうとする。各社の発表から、デジタル技術が変える自動車産業の将来像が垣間見えてきた。

 完全自動運転を目指す代表格が、米Ford Motorと米General Motors(GM)だ。両社が打ち出したのが、サービス業としての自動車メーカーの将来像。自動運転車を使ったタクシーサービスの提供も目指す姿勢をCES 2016で強調した。

交通サービス市場は630兆円

 「自動運転車は大きなビジネスチャンスだ。2兆3000億ドル(1ドル約117円換算で約270兆円)の自動車市場ではなく、5兆4000億ドル(約630兆円)の交通サービス市場で勝負をする機会を得られる」――。FordのMark Fields CEO(最高経営責任者)は、CESの記者会見でこう力説した(写真1)。

写真1●CES 2016で記者会見する米Ford MotorのMark Fields CEO(最高経営責任者)
写真1●CES 2016で記者会見する米Ford MotorのMark Fields CEO(最高経営責任者)
[画像のクリックで拡大表示]

 同社は米国で自動運転車の路上テストを始めており、2020年までに自動運転車を製品化する予定。その際には自動運転車のシェアリングサービスや、自動運転車を使った交通サービスも視野に入れる。既に2015年6月から米国や英国でカー・シェアリング・サービスの実証試験を始めている。

 GM(写真2)も自動車相乗りサービスの米Lyftに5億ドル(約580億円)を出資し、自動運転車を使ったタクシーサービスを共同開発すると発表した。

写真2●CES 2016で基調講演をする米General MotorsのMary Barra CEO
写真2●CES 2016で基調講演をする米General MotorsのMary Barra CEO
[画像のクリックで拡大表示]

 自動運転車を使ったタクシーサービスは、Lyftの競合である米Uber Technologiesや米Googleも目論む。Uberは2015年2月に米カーネギーメロン大学と提携し、自動運転車の自社開発を始めている。Googleは2014年5月にハンドルもアクセルペダルも搭載しない自動運転車を発表。2015年から同モデルの路上テストを開始した。

 日本でもディー・エヌ・エーとベンチャー企業のZMPが共同出資して設立したロボットタクシーが、2020年までに自動運転車を使ったタクシーサービスの実現を目指している。2020年代には様々なプレイヤーが自動運転車によるタクシーサービスを展開している可能性が高まっている。