図1●米国の証券大手であるチャールズ・シュワブが投じた「ロボ・アドバイザー」
図1●米国の証券大手であるチャールズ・シュワブが投じた「ロボ・アドバイザー」
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 2015年3月、米国の証券大手であるチャールズ・シュワブが投じたサービスに、業界は騒然とした。「ロボ・アドバイザー」サービスを、個人向けに無償提供するとしたのだ。同サービスは、プログラムが自動で一人ひとりの投資ポートフォリオを構築し、資産運用するもの(図1)。IT系スタートアップを中心とする米国のFinTech企業が、続々とサービスを繰り出してきた領域だ。

 個人や法人による資産運用を自動化するロボ・アドバイザーは、対面サービスを基本とした証券会社の資産運用支援業務を侵食する可能性を秘めていた。チャールズ・シュワブは自らが同サービスを投入し、FinTech企業の攻勢に待ったをかけようとした格好だ。

図2●米国の大手銀行バンク・オブ・アメリカのスマホ決済サービス「Mobile Pay on Demand」
図2●米国の大手銀行バンク・オブ・アメリカのスマホ決済サービス「Mobile Pay on Demand」
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 こうしたことは、ロボ・アドバイザーの領域に限らない。大手銀行のバンク・オブ・アメリカは、スマートフォン決済が登場して早々に、iOSとAndroidに対応したドングル型端末を使ったスマホ決済サービス「Mobile Pay on Demand」を発表(図2)。FinTech企業への対抗措置を講じている。

 斬新なテクノロジーを武器に金融サービスに乗り出すFinTech企業と、それを迎え撃つ既存の金融機関。FinTech企業に世界最大の投資マネーが流れ込む米国では、両社の対決構造が鮮明だ。野村リサーチ・アンド・アドバイザリーの小川久範調査部調査一課主任研究員は、「シリコンバレーでは、『FinTech企業が金融機関の担う業務のどれを代替できるか』といった議論が盛んだ」と話す。

 ただし、米国と並んでFinTechの双璧と目される英国・ロンドンでは様相が異なる。「金融機関が手を出さなかった領域でFinTech企業がサービスを展開するなど、補完関係を築いているようだ」。小川主任研究員は、このように説明する。

 さらに、「世界の金融ハブとしての地位を維持するため、行政も積極的にFinTech企業への支援に乗り出している」(小川主任研究員)という。例えば、FinTech企業の支援プログラムを作り、毎週のように金融機関のCTO(最高技術責任者)がFinTech企業にアドバイスする場を設けるといった熱の入れようだ。