iPhone 6の無線性能を最大送信電力と最低受信感度で議論します。最大送信電力と最低受信感度はそれぞれ、第2回で取り上げたTRP(Total Radiation Power)とTIS(Total Radiated Sensitivity)で測ります。

 まず送信側のTRP特性です。LTEバンド 1から41のうち、19バンドの周波数に対して測定を行いました。実際にはもっと多くの対応周波数があるのですが、時間の都合で一部を省略しています。なお測定には、第3回で紹介した電波暗室と反響箱(リバブレーションチャンバー)を利用しています。

 測定結果を見ると、700MHzから2100MHzまでの19バンドの測定データを鳥瞰すると、iPhone 6は全てのデータでTRPの標準的な要求値を満足していることが分かりました。なお、実際には具体的な測定値が得られていますが、今回はそれを公表するのは差し控えます。

 さらに、19の測定データの最大値と最小値の差は、たかだか2.8dB(デシベル)しかないという結果となりました(dBは大きさの違いを示す単位のことです)。これだけ広範囲の周波数をカバーしながら、周波数特性を2.8dBという範囲内に抑えることができたのは、前述のアンテナチューナー/スイッチによるエンジニアリングの結果と考えられます。

スマートフォンの構造上、受信感度のばらつきは大きくなる

 受信側のTIS特性についてはどうでしょうか。TRPと同様に19の周波数において標準的な受信感度を実現していることが分かりました。ところが、TISの最大値と最小値の差は5.8dBとなりました。TRPに比べてばらつきが大きくなり、少し劣化しています。その理由を考察してみます。

 第1回のハードウエア構成で説明しませんでしたが、TRPの周波数特性を調整する要素に、PA(パワーアンプ、Power Amplifier)があります。PAは増幅器の一種で、送信信号を増幅して遠くまで届くようにする役割を果たします。