米国ラスベガスでAWS(Amazon Web Services) のお祭り「リ・インベント(re:Invent)」に参加した翌週は、ニューヨークへ移動しました。私たち同様、既存ビジネスにどっぷり浸かっている金融ビジネス界のいろいろな人たちを訪問してきたのです。

 ラスベガスで目にしたAWSの活発な動きが、どのように金融業界へ波及しているのでしょうか。この1年のAWSの変化と同じペースで米国の金融業界が変化したとすると、日本の金融業界にとっては話がいっそう深刻になります。

 米国のメディアを見ていると、ビットコインの値上がりはすごい勢いです。でも反対に、そのほかのFinTechの話をあまり目にしなくなりました。リアルビジネスの局面に入ったから、メディアに登場しなくなったのではないかという気もします。米国に周回遅れでようやく動き出した日本とどう違うのか、大変気になります。

 昨年訪問したベンチャー企業はいったいどうなっているのだろうか。そう思ってニューヨークで最初にお会いしたのはA氏です。彼は私が昨年お会いした時には、モバイルバンキングを手がけるFinTechベンチャーのトップでしたが、その後すぐに大手の商業銀行のモバイル事業ヘッドとして華麗な転身を遂げた人物です。

「FinTechベンチャーはかなり厳しい」

 楠「このところFinTechベンチャーの話をあまり聞かなくなったけれど、全体的にどう感じていますか。私の理解では、B2C(消費者向け)のビジネスモデルを目指すところはかなり少なくなって来ていて、既存の金融ビジネスにソリューションとして購入してもらうB2B(企業向け)に活路を見だそうとしているように思えるのですが」

 A氏「そうですね。FinTechベンチャーは散々ですよ。かなり厳しいと思います。やっぱり金融で他人のお金を預かるには信用が必要ですが、ベンチャー企業にはなかなか超えられない壁なんです。だから、実験的なサービスを実施するところまではいいんですが、それを超えて儲かるビジネスにはほとんど到達しません」

 楠「儲かるビジネスというと、レンディングクラブは軌道に乗ったと言えるのではありませんか」

 A氏「楠さんも知っていると思いますが、レンディングクラブの共同創業者がスキャンダルでCEO(最高経営責任者)を辞任してからは、順調とはいえない状況です。もともとは資金の貸し手と借り手をネット上で結びつけるというのが売り物のビジネスモデルだったわけですが、これだと貸し手が十分に集まらなくなってしまいました。レンディングクラブ、それに同じビジネスモデルのプロスパー・マーケットプレイスも、最近ではほとんど機関投資家、つまりヘッジファンドが資金の貸し手として主役になったようです。結局、P2P(個人間)融資というビジネスモデルではうまくいかないんです」